灯台は何からできている?

2019/08/01

↑ 初代観音埼灯台:写真提供 公益財団法人 燈光会

子どもの頃、友達が「山の中身ってなんだと思う?」って聞いてきた。ふたりで「ぜんぶ土かな・・」って言いながら、カスタードがいい、いやジャムがいいって、いつの間にか菓子パンの話になったことを覚えている。

このように、実は何からできているかわからない(っつーか考えたことなかった)っていうコト、意外とあると思う。そこで今回は灯台が何からできているか、素材に着目してみよう。

■作りやすいが、脆かった「レンガ造」の灯台

明治元(1868)年、日本で最初に建てられた観音埼灯台(神奈川県横須賀市)はレンガ製。フランス人のフェリックス・フロランが設計し、フランソワ・ヴェルニー率いる技術者たちの指導で建築された。レンガには「ヨコスカ製鉄所」と刻印がされている。

レンガは量産可能な人工材であり、近くで焼くことができれば運搬も楽だ。しかし震災によって揺れに脆弱であることが露呈する。初代観音埼灯台は大正11(1922)年の地震で倒壊した。ちなみに現在の観音埼灯台は3代目だ。2代目の灯台は大正12(1923)年に建てられたが、関東大震災で被災。わずか半年しか点灯することができなかった。いまでも灯台下の浜辺には、初代のレンガと、2代目の塔が落下した形で残っている。

↑ 初代のレンガ

↑ 2代目の塔

表面を塗装してあるのでわかりづらいが、スコットランド人技術者であるリチャード・ヘンリー・ブラントンが設計した御前埼灯台や犬吠埼灯台、尻屋埼灯台などは現在も現役のレンガ造灯台だ。

↑ 尻屋埼灯台

■江戸時代の主流は「木造」の灯台

江戸時代の灯台はどんな姿だったのだろう? 当時は日本式の灯台が建てられていた。燈明臺(とうみょうだい)や燈明堂(とうみょうどう)などと呼ばれ、木造の小屋の内側で油に浸した灯芯に火を灯していた。

↑ 浦賀燈明堂

明治以降、政府は西洋式灯台を建築していったが、木材は当時の大工さんにとって扱いやすい素材だったため、西洋式灯台でも用いられた。

現在は航路標識としての役割はしていないが、史跡となっている旧堺燈台(大阪府堺市)は日本人の設計によって建てられた。

他にも初代安乗埼灯台(三重県志摩市から東京都の「船の科学館」へ移築)や、酒田灯台(山形県酒田市)など、文化財として残る中、今津灯台(兵庫県西宮市)は再建しながら現在でも現役で明かりを灯している。

↑ 旧堺燈台

■頑丈だがつくるのが大変だった「石造」の灯台

西洋で多く見られる灯台は石造である。石は耐久性が高く、地震の少ない国々では300年以上も変わらない姿をみせてくれる。しかし採石場から運搬するには大変な労力が必要だった。

道路や鉄道が十分に整備されていない時代、主な輸送方法は船舶である。そうなると港や海岸から建築現場までは、人が担いで山道を登るか、切り立った崖を引き上げるかなどの方法をとるしかない。どちらにせよマンパワーが必要である。それを支えたのは地元の人々だった。きっと運び賃のためだけではなく、我が村にできる立派な灯台に期待して労力を惜しまなかったのだろう。

灯台マニアとしては石造のゴツゴツとした肌合いに胸がときめく。

↑ 禄剛埼灯台

■工期のスピードアップを果たした「鉄造」の灯台

寒冷地など冬に工事が中断される場所や、完成を急ぐ理由がある場合は、短い工期で建築できる鉄材が選ばれた。姫埼灯台(新潟県佐渡島)は日本で現役最古の鉄造灯台である。

↑ 姫埼灯台

トラス構造の部分やリベット部分に灯台マニアとして萌える。しかし当時、鉄は輸入していたためコストがかかり、さらに腐食に対する保守も必要であった。

横浜港北水堤灯台(神奈川県横浜市)や、室戸岬灯台(高知県室戸市)など、鉄造の灯台はシルエットがバラエティに富んでいる。

↑ 横浜北水堤灯台

↑ 室戸岬灯台

■大正以降の主流「コンクリート造」の灯台

明治45年に建てられた清水灯台(静岡県清水市)は日本最初の鉄筋コンクリートの灯台である。これ以降、徐々に鉄筋コンクリートの灯台が主流となっていく。

↑ 掛塚灯台

コンクリート製の灯台はそれ以前からあったが、無筋であった。掛塚灯台(静岡県磐田市)は上部と下部で素材が違う。下の部分は無筋コンクリート。無筋コンクリートで全体を作ると耐震性に不安があったためだと思うが、上部は鉄で作られている。

↑ 清水灯台

■素材がわかるとつくった人の思いが伝わってくる

昨今はFRPという強化プラスティック製の灯台が作られたり、鉄の部分にチタン箔を貼って腐食を防ぐという方法がとられたりするなど(2017年に掛塚灯台で採用)、新素材の技術を灯台建築や保全に生かしている。

このように灯台の素材は時代によって地理的、経済的事情で使い分けられていた。灯台に行ったら、その灯台が何からできているか、その素材が選ばれた理由、建築にはどれだけの人が携わったか思いを馳せてみてはどうだろうか。海に囲まれた日本がどのように近代化してきたか、その歴史を感じることができるはずだ。

なんてね、山の中身がいまだに何かよくわかってないのに、灯台に関して偉そうに書いちゃったことを許してほしい。

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執筆者プロフィール

不動まゆう

灯台専門フリーペーパー「灯台どうだい?」編集発行人。自腹で世界各地の灯台を取材し発行している。灯台女子としてテレビ、ラジオ出演、新聞、雑誌への掲載も多い。毎年「灯台フォーラム」を企画・運営する。講演等で「灯台」や「フレネルレンズ」の文化的価値を訴え、「100年後の海にも美しい灯台とレンズを残す」ことを目指して活動の幅を広げ続けている。著書『灯台はそそる』(光文社)、『灯台に恋したらどうだい?』(洋泉社)。2018年11月1日海上保安庁長官から表彰を賜る。