編集長がゆく! 拝啓 安房埼灯台さま
2020/04/01不動まゆう灯台現地レポート
神奈川県 安房埼灯台
いわゆる「3度のメシより灯台が好き」なマニアが綴る灯台レポート。灯台で「見て」「感じて」「味わった」ことをウンチクと共に伝える。
拝啓
今日も風が強いですね。冷たい波をかぶっているのではないかと心配しています。でも60年近く海を見守ってきたあなたにとっては、なんてことはないのかもしれません。むしろ、残された時間を知って、ひとつひとつの波を愛おしんでおられるのではないでしょうか。
あなたに会うためには、いつもゴツゴツの岩場を歩いていかなくてはなりませんでした。足首をくじきそうになりながらも、はやる気持ちを抑えられなくて、懸命にあなたを目指しました。
そして近づくにつれ、あなたが意外と大きいことに気づきます。意外なんていったら失礼ですね。でも、ふいに感じる頼もしさにドキドキしていました。
いつ行ってもあなたの周りには釣り人がいて、あなたに釣竿を立てかけるその親密な様子に、ちょっと嫉妬をしたりもしました。
城ヶ島は都心からアクセスも良くて、人気の観光スポットですね。マグロと城ヶ島灯台が有名。
その影に隠れるわけではないのですが、あなたの一歩引いた佇まいに私は惹かれます。
青空の下も、夕日で空がオレンジに染まる時も、灯光を輝かせる夜も、どの姿もうっとりするほど素敵です。
先日の(2020年)3月8日以降、あなたは旧安房埼灯台と呼ばれるようになりました。新設された新しい灯台は、ダイコンをイメージしたデザインで、公園の芝生に立っています。
岩場を歩かなくても会える新しい灯台。三角屋根もかわいらしくて、きっと人気がでるでしょうね。あなたがずっと照らしていた危ない暗礁も、新しい灯台が引き継いで海の安全を守ってくれるそうです。
あなたがきっと願っているように、私も、新しい灯台が多くの人から愛されて、末長く海を見守ってくれることを望みます。
でも、あなたがいない安房埼の岩場を私は想像できません。先日行った時、あなたの周りに組まれた足場を取り除いてしまいたかった。
あなたにはずっとそこにいて欲しかった。私にとって、安房埼灯台はあなたしかいません。
目をつむればいつも、あなたが安房埼灯台としてそこにいます。
感謝を、永遠の愛をあなたに。
敬具
不動まゆうより
安房埼灯台さま