「和歌山県のロケ地といえば雑賀崎灯台!」映画『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』インタビュー(第1回)

2022/04/04

2021年秋開催の「紀の国わかやま文化祭2021」にて上映された映画『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』。和歌山県湯浅町のしょうゆ店「角長」を舞台に、和歌山市の雑賀崎灯台、紀美野町の棚田、串本町の橋杭岩など和歌山県内各地で撮影され、和歌山の美しい自然や街並みが堪能できます。また、映画には雑賀崎灯台だけでなく下津港の牛が首赤灯台も登場します。

人とうまく話せずにいじめられ、不登校を経験したさやかが新聞記者となり、さまざまな人との交流の中で、周囲を癒し、人々を再生させていく成長物語が描かれます。主人公さやか役を演じた七海薫子さんは、同県すさみ町出身です。七海さんのアイデアがきっかけで映画制作に至った作品です。どのような道のりを経て映画が出来上がったのか。七海さん、そして七海さんがアイデアを持ちかけた本作の監督、中野広之さん、プロデューサーの小林薫さんのインタビューを全3回にわたりお届けします。第1回となる本インタビューでは、映画制作までの道のりと、ロケ地としての灯台についてお話しいただきました。

ーー映画は七海さんのアイデアきっかけでスタートしたと伺っています。

七海薫子さん(以下、七海):すさみ町出身で、豊かな自然の中で育ったことは私の宝物です。大人になり「和歌山県を映像の力で盛り上げたい」と思う気持ちが強くなり、和歌山県の北部で開催されて町おこしイベント「孫市まつり」に10年ほど前から関わっています。町おこしとして映画というアイデアはずっと持っていましたが、映画は予算がかかるので、なかなか踏み出すきっかけがありませんでした。今回、「紀の国わかやま文化祭2021」で上映する映画として、県が予算を半分出してくださるという経緯もあり、念願の映画作りをすることができました。

私自身の経験、場面緘黙症(人前に出ると喋れなくなる不安障害)を主人公のキャラクターに取り入れ、紀州の人の温かさが伝わる、観る人を元気付ける作品にしたいという想いを、以前から交流のある中野監督に持ちかけたのがきっかけで、製作委員会を自ら立ち上げました。

中野広之監督(以下、中野監督):七海さんからアイデアを聞いて、私が脚本を書くことになりました。実は、私を含め、七海さんも小林さんもカウンセリングをする側の経験があります。これまで児童文学の映画化を活動のひとつとしてやってきましたが、それぞれに専門パートがあり、カウンセリングで得たものを活かした題材選びをしてきました。例えば、子どもが悪い道に迷い込んでしまったとき、大人はどうすべきかといところを描いてきました。リポーターとして地元の人との交流することで場面緘黙症を克服し、アナウンサーとして活躍する彼女を20年近く側で見てきた身なので、和歌山県発信の映画として素晴らしいアイデアだと思いました。

ーー冒頭から和歌山市の雑賀崎灯台も登場し、灯台が強く印象に残る映画だと感じました。ロケ地選びに関して、半分予算を持っている和歌山県から何かリクエストなどはあったのでしょうか?

小林プロデューサー(以下、小林P):和歌山県からは細かなリクエストはありませんでした。「作品の内容、ロケ地選びも、自由にどうぞ!」という感じで、作りたいものが作れるありがたさを感じながら制作しました。

中野監督:ドローンについても「どこを飛ばしてもいいですよ」と言っていただきました。私は普段、京都で撮影しているのですが、ドローンの許可取りは本当に難しいので、こんな機会はないと、たくさん飛ばしました(笑)。でも、本編に使ったのはほんの一部になってしまいました。

七海:和歌山県外から撮影に来る人は多いのですが、和歌山県発信で映画を作ることはほとんどなく。県としては今回が初でした。知事や役所の職員さんたちが上映会や撮影現場に足を運んでくださったのもとてもうれしかったです。この映画をきっかけに、和歌山県発信の映画が増えるといいな、などと思いながら制作していました。

小林P:コロナ禍の影響で、記者会見などを含めた宣伝に関してはいつも通りの段取りが踏めなかったことは残念でしたが、それでも、役所だけではなく地元の方の協力により、よい結果を生み出せたと思っています。

中野監督:上映会では6日間で1000人近い動員がありました。上映場所のキャパを考えたら、4、500人観てくれれば上出来という中で、倍以上の動員があったのは本当にうれしかったです。

七海:撮影中は地元の新聞社のほとんどが取材に来てくれましたし、テレビ和歌山の夕方のニュースで紹介してくださったのをきっかけに、県内に映画の存在を知っていただけたことも大きかったと思います。

小林P:映画に出演している80歳を超えたおばあちゃんが、回覧板にチラシを入れて告知してくれたり(笑)。

七海:私が演じるさやかのおばあちゃん役の方です。撮影中には、食事作りもしてくださり、本当にお世話になりました。ギリギリの予算で制作していたこともあり、食事などは地元の方の手作りが多かったです。原田龍二さんにも「おいしい」とよろこんでいただきました。

小林P:出演してくださった地元の方たちは「自分たちの作品」として映画を愛してくれました。親しみを持ってくださるのが伝わり、本当にうれしかったです。舞台となった「角長」(醤油発祥の地・湯浅町で1841年創業の老舗醤油会社)さんは、『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』を観る有志の会も立ち上げてくださり、4月には役所のホールで上映会をやる予定です。

ーー映画に携わった地元の方たちの一体感や期待が伝わります。

中野監督:原田さんは過去に何度も一緒に仕事をしており、「地元の作品を作るときには駆けつけます!」とおっしゃっていただき、小西博之さんは地元の方で普段から和歌山を盛り上げるために尽力していらっしゃいます。工藤堅太郎さんも「何かあったら協力したい」と以前から話していたので、御三方の出演により作品が引き締まったし、地元の方たちの演技のクオリティも引き上げていただいたと思っています。

七海:町おこし映画ということを理解し、参加していただけたことはとてもありがたかったです。私の親戚が小西さんと知り合いということもあり、ちょっとした縁も感じています。

ーーロケ地選びは自由度が高かった、という中で雑賀崎灯台を選んだ理由を教えてください。

小林P:文化祭には準備段階として、地元の方のインタビュー取材の機会がありました。食文化や自然、おすすめのスポットなどを紹介しいただく内容です。「角長」さんとの出会いもそのインタビュー取材を通してでした。

ーーロケハンのようなインタビュー取材というイメージでしょうか?

小林P:その通りです。七海さんはその段階から参加してくださいました。

中野監督:車中泊をしながら、最低3日ほどかけてスポットを見て周るのを繰り返しました。そこから選ばれたロケ地が映画に採用されています。

七海:熊野三山と呼ばれる熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社、那智山青岸渡寺の三社一寺は古来より速玉が前世の罪を浄め、那智は現世の縁を結び、本宮が来世を救済するといわれ、過去、現在、未来を表す場所と言われています。さやかのストーリーと重なるところがあり、そこを取材したことにより脚本が進み始めて3ヶ月後にクランクインとなった経緯があります。ラストシーンに登場する那智の滝は撮影時期が限られていて、クランクイン序盤に撮らなければいけなかったスポット。映画のラストシーンとなったこの地から撮影したことも含めて、とても印象に残っています。

ーー雑賀崎灯台もインタビュー取材の中から選ばれたスポットなのですか?

中野監督:雑賀崎灯台は、和歌山県で撮影と言ったら、必ずロケ地候補にあがるスポットです。和歌山県発信の映画でここを入れない選択肢はないかと(笑)。

七海:さやかが雑賀崎灯台の前でお寿司の取材をするシーンに登場します。鷹の巣と呼ばれる雑賀崎の険しい崖の上に立つ灯台で、鷹がグルグル飛んでいることでも有名です。鷹にお寿司を食べられてしまうというシーンでしたが、都合よく飛んで来てくれないので「鷹待ち」状態が続いたのが、撮影の思い出です。

小林P:映画には下津港の牛が首赤灯台も登場します。赤くかわいらしい灯台が映える美しいシーンなので注目してほしいです。

第2回では、七海さん、中野監督、小林P、それぞれの灯台の思い出について語っていただきます。3人の出会いにも灯台が関係しているというお話も飛び出しました。お楽しみに。

 

取材:タナカシノブ

 

『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』
原案:七海薫子
脚本・監督:中野広之
チーフプロデューサー:小林薫
主催者:文化庁 厚生労働省 和歌山県 和歌山県教育委員会
第36回国民文化祭、第21回全国障害者芸術・文化祭和歌山県実行委員会
キャスト:七海薫子 原田龍二 小西博之 工藤堅太郎