2021年、期待が高まる「海と灯台プロジェクト」が取り組むもの(「海と灯台ウィーク」発足記念イベントより)
2020/12/09日本財団は「海と日本プロジェクト」活動の一環として、11月1日の灯台記念日にちなみ「海と灯台ウィーク」(11月1日〜11月8日)を設定。その発足日10月26日に記念イベントを開催しました。イベントは2部構成で行われ、第1部の会見では「海と灯台ウィーク」の概要や今後の展望が発表され、第2部では「海と灯台プロジェクトについて」の説明と、有識者を交えたトークセッションが行われました。
会見ではまず、日本財団の笹川陽平会長、海上保安庁の奥島高弘長官が「灯台ウィーク」を共に開催することへの想いを語りました。
笹川会長は「灯台は日本人にとって格別なものなの」とし、「長きに渡り、海との関わりを大きな仕事のひとつとしてやってきた日本財団だからこそ、次の時代を担う人たちに、灯台の存在、どのように海を守ってきたのかを伝えていきたい」とコメント。「灯台には素晴らしいストーリーがあります。でも実際には地元の人にもそれが伝わっていないという残念な現実もあります。埋もれたストーリーを掘り起こすことで、24時間海を照らす灯台以上の明るい光を当てていきたいと願っております」と灯台ウィークをはじめとし、今後のさまざまな取り組みへ期待を寄せつつ、協力も呼びかけました。
奥島長官は「コロナ禍では、イベントや灯台の一般公開も中止や延期が続いたものの、現在は感染予防対策を適切に行ったうえで再開中」と、うれしい報告を伝え、続けて「明治元年(1868年)11月1日に最初の洋式灯台・観音埼灯台(神奈川県横須賀市)が建設されてから、今年で152年になります。歴史的・文化的価値に改めて注目しつつ、海への関心が深まり灯台が身近なものになるよう、地方自治体の方に観光資源として活用いただき、地域の活性に役立つようにさまざまなイベントに協力していきたい」と地方自治体との積極的な連携への意気込みを語りました。
続いて、日本財団の海野光行常務理事より、「灯台ウィーク」および「海と灯台プロジェクト」の説明がありました。
海野常務理事は「海と日本プロジェクト」の一環として灯台への関心を喚起するために実施してきた<3つの柱>を紹介しました。1つ目の柱は船の航海技術の進展等により航路標識としての「灯台」の役割が変わり、新たな役割と活用を見出す人を増やすこと。2つ目の柱は「灯台」そのものへの関心を高め、灯台に訪問する人、特に若年層を増やすこと。そして3つ目の柱は地方自治体を巻き込み、「灯台」を地域資源として活用する機運や具体的な事例を増やすこと。
これら3つの柱に注力した結果、全国の灯台のまちネットワークとして、49市町村全51基の連携灯台が出てきたことに触れ、認定自治体による積極的な取り組みに感謝しながら、300以上の新たな灯台の利活用事例が誕生したことを発表しました。環境整備、モニュメント、観光、グッズ・サービス、イベント、エンターテイメントなどさまざまな利活用事例がある中で、特に活発だったのはイベントとし、灯台のライトアップや灯台周辺でのグルメイベント、婚活イベントや水仙祭りなど灯台を軸に多様なイベントが開催され、多くの集客ができたことを報告しました。
イベントが中心となり、他のものに波及していったという広がりについても言及し、その代表的な事例として、岩崎ノ鼻灯台(富山県高岡市)の眺望を整備し誕生した人気スポット、入道埼灯台(秋田県男鹿市)では、なまはげが2018年にユネスコ無形文化財に指定され、その登録1周年を記念して特化型のツアー「冬本番!男鹿のナマハゲ味覚ツアー」の催行、ハートの漁港&灯台として、若者を中心に人気となった大須埼灯台(宮崎県石巻市)でのSNSの活用、そして友ヶ島灯台(和歌山県和歌山市)では、音声ARアプリを使用した神秘的な散策を実現することで注目を浴び、定期便の増加で地元の活性化につながったことなどの紹介。
5年間で3000以上のメディアへの露出もあり、灯台にまつわるイベントに注目が集まっているとしながらも、活動を経て<3つの課題>が見えてきたことを強調した海野常務理事。1つめは灯台の存在意義や継承理由を正しく伝えていないこと、2つ目は役割や機能を物語化できていないこと、3つ目は灯台が持つ多様な価値と利活用の可能性について戦略的な取り組みがないこと。「この3つの課題が浮き彫りになったことで、大きなポテンシャルを持つ灯台の価値を整理する必要がある」と想いを語りました。
灯台には掘り下げるべき歴史や文化があると多くの自治体が認識し、観光資源であり地域の海のシンボルである、その歴史的価値を尊重し後世に伝えながら、地域の観光資源として活用を求める声は圧倒的に多数であることに触れ、「ここで何ができるのかがポイントになります。チャレンジしてみたいと思いました」と強くアピールし、それが「海と灯台プロジェクト」につながったという経緯を説明しました。
「海と灯台プロジェクト」は、日本財団「海と日本プロジェクト」が主催し、海上保安庁(各海上保安部)が協力、そこに運営事務局、そして3つの柱である海と灯台の町連合会、海と灯台学研究グループ、海と灯台アライアンスが加わった組織となります。「目標は、現在49市町村にある連携灯台全51基の数を増やすこと。目標は80基以上まで広げていきたいです」と意気込みを語りました。
また、2021年からの3ヵ年計画で6億円の予算で実施することや、その準備年である今年度の展開施策も発表されました。ステップ1として「灯台の利活用・ニーズを把握する調査」の実施、ステップ2として「灯台の新たな利活用を検証する”現地調査”」(青森県東通村・尻屋埼灯台、宮城県石巻市・大須埼灯台、石川県珠洲市・禄剛埼灯台)。ステップ3として「新需要を掘り起こす4つのモデル事業」の実施として、灯台×海道開発(島根県松江市・美保関灯台&出雲市・出雲日御碕灯台)、「灯台に泊まる」催しの実現(北海道江差町・鴎島灯台)、灯台神楽の実演(岩手県普代村・陸中黒埼灯台)、灯台キャンプ!プログラム開発(長崎県長崎市・伊王島灯台)を紹介しました。
さらに、ステップ4として産学官連携プロジェクト「燈の守り人(あかりのもりびと)」のコラボレーションを発表。大阪成蹊大学芸術学部と大手声優プロダクションの青二プロダクションのタッグで取り組んでいることについても報告されました。そして、ステップ5として、2021年1月実施予定の「海と灯台」フォーラムでは、灯台の文化価値創造についてのプレゼンテーションや提言を行うことにも触れました。海野常務理事は「2021年より3カ年かけてこれまでの歴史と先人たちの功績を称えつつ、海洋文化資産としての灯台の価値を高め、それぞれの地域で灯台を海と人とのつながりの拠点にしていきます」と結びの言葉を述べ、発表を締めくくりました。
続いて行われたクロストークには東京工業大学・藤岡洋保名誉教授、フリーペーパー『灯台どうだい?』不動まゆう編集長、北海道江差町・照井誉之介町長が登場し、灯台が「海と人をつなぐ拠点であるために」をテーマに灯台を巡る新たな展望についてのトークセッションが行われました。
藤岡名誉教授は「灯台を見ることで日本の歴史が見えてきます。灯台の歴史を辿れば、日本の近代に新たな光を当てることができます」と解説しました。不動編集長は灯台ファン代表を強調しつつ「夜の灯台は震えるほど美しい」とし、夜をターゲットにした灯台の利活用のアイデアなどを提示しました。そして照井町長は、海の魅力を丸ごと体験するキャンプ“マリンピング”を通して「灯台に集まって楽しむという仕組みを作りたいです」と意気込みを述べていました。3人の今後を期待させる発言に、会場は大きな拍手に包まれました。
さまざまなアイデアが飛び交い、今後の灯台の利活用に明るい光が点っていることを強く感じさせる発表となり、「海と灯台プロジェクト」のこれからの展開へ期待の高まるイベントとなりました。
文:タナカシノブ