「灯台は、神話の巨人のような存在」『ライトハウス』脚本家マックス・エガース氏インタビュー(第1回)

2021/07/06

7月9日(金)より日本でも公開される『ライトハウス』(ロバート・エガース監督作)は、1801年のイギリス・ウェールズでの実話をベースに描かれたスリラー映画です。モノクローム&スクエアな画角で映し出されるダークな雰囲気の物語は、1890年代のニューイングランド沖、離島の灯台で終わらない嵐の影響で迎えの船が来られず、外界から孤立した灯台守トーマス(ウィレム・デフォー)新入りの助手イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)。正反対の性格の2人は緊感が高まるなか、島を取り囲む謎めいた力によって次第にと心を狂気と幻想に侵されていく。その過程が恐ろしくも美しい映像で描かれます。

この映画では、ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーの実力派俳優のW主演で、ほぼ全編が彼らの二人芝居で構成されています。そんな二人の狂気的な芝居を盛り上げる「舞台装置」となったのが、映画のタイトルでもある「灯台」。灯台の壁面を白塗りし、漏れのある屋根に補修し、石炭を運び、真鍮をこすり洗いし、貯水槽を整備し、灯台のビーコンに燃料を供給するといった灯台守の仕事の様子も丁寧に描かれ、灯台ファンにとっても非常に気になる作品です。今回は、そんな劇中の舞台裏を灯台、灯台守に焦点を当て、ロバート・エガース監督と共に脚本を手掛け、監督の弟でもあるマックス・エガース氏に話を伺いました。

 

——『ライトハウス』の着想は、「灯台」が舞台の物語に惹かれた理由を教えてください。また、マックス氏にとって「灯台」はどんな場所でしたか?

マックス・エガース:灯台への個人的な興味は、幼い日の私と兄ロバートの間で家族旅行や修学旅行を通して芽生えました。私たちはそれらの旅行でメイン州とそこにある多くの灯台を訪れました。ニューイングランドで育った私にとってアメリ、そして世界中に点在する無人の灯台のミステリアスさは、とても興味深いものでした。まるで過去の神話の巨人に出会ったような気分でした。”彼ら”はそう、それぞれの地に秘められた歴史を背負い続ける見張り番なのだ…と。

それから数年後、エドガー・アラン・ポーと彼の未完の短編小説「The Light-House」が、私の興味を再びかき立てたのです。アマチュア脚本家だった私は、愚かにもポーのためにこの小説を完成させられるのではないか…と考えました。灯台を舞台にしたゴーストストーリーという設定は、見逃すには惜しいものでした。ロバートが『ウィッチ』(2015年制作のダークファンタジー・ホラー)を制作している間、私は彼に自分のアイデアを話していましたが、彼が、本人も認めているように、そのコンセプトを羨ましく思っていることは知りませんでした。年が経ち、私の脚本がまとまらないうちに、ロバートと私は再びこのアイデアについて連絡を取り合うようになりました。彼は別のコンセプトとストーリーを持っていて、それがこの映画『ライトハウス』になりました。

(c) 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

——脚本執筆を通して、「灯台」、「灯台守」について何か感じたこと、気付かされたことはありますか?

マックス:灯台守の仕事は、男性も女性も、時には子供や動物まで、やりがいのある、しかし時に過酷なものでした。特に登場人物たちが働く孤島の灯台は“スタッグ・ステーション”(女性や家族には危険過ぎる僻地の灯台)と称される、特に危険な場所でした。映画において二人が仕事の過酷さに悩まされ、度々言い争う姿はとても意味深い描写です。ささいなカモメの妨害から嵐の接近、そして仲間との人間関係までもが、当時の灯台守にとっては命取りになるきっかけを秘めていたのです。

灯台守は、職業柄、航海日誌を綿密に書き記していました。研究者にとって、これらの文書は、彼らの日常生活や仕事を知るための貴重な情報源でした。また、19世紀後半に作成された灯台守のマニュアルには、灯台守が何をすべきかが詳細に記されていました。この2つの書類は、映画において現実的で正確な世界を作り上げるだけでなく、ドラマチックな展開を生み出すための道標にもなりました。霧信号の操作、船乗りの目印となる塔の白塗り、貯水池の飲み水の確保、フレネルレンズの清掃など、毎日が大変な作業の連続でした。灯台守と助手の間には上下関係があることも、今回の調査でよくわかりました。映画の登場人物が衝突し合う部分は、これが基になっています。

 

(補足)1801年に実際に起きた悲劇では、2人のウェールズ人の灯台守(共にトーマスという名前)が嵐の中、灯台に閉じ込められ、年配のトーマスは事故で亡くなり、若いトーマスは同僚の死で非難され罰せられると考えて狂ってしまったという記録です。兄のロバート監督によると「その悲劇が本作のストーリーではありません。しかし2人の灯台守という設定は、アイデンティティについて描く二人芝居にとって良い設定だと思えたのです。奇妙なものに発展し、刺激的という意味で曖昧さを持って演じることができると考えました」と語っています。

マックス氏は他にも「灯台」のロケーションなどについても語ってくださっています。この続きは「第2回」(7月8日更新予定)をお楽しみください。

 

映画『ライトハウス』

7月9日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

STORY:1890年代、ニューイングランドの孤島に二人の灯台守がやって来る。彼らにはこれから四週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。だが、年かさのベテラン、トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と未経験の若者イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)は、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。険悪な雰囲気の中、やってきた嵐のせいで二人は島に閉じ込められてしまう……。

監督・脚本:ロバート・エガース/脚本:マックス・エガース/撮影:ジェアリン・ブラシュケ/製作:A24 

出演:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン

2019年/アメリカ/英語/1:1.19/モノクロ/109分/5.1ch/日本語字幕:松浦美奈

原題:The Lighthouse/提供:トランスフォーマー、Filmarks/配給:トランスフォーマー 

公式HP:transformer.co.jp/m/thelighthouse/

(c) 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.