「本来の灯台の役割を体感できる取り組みを」映画『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』インタビュー(第3回)

2022/04/19

和歌山県湯浅町のしょうゆ店「角長」を舞台に、人とうまく話せない主人公がいじめや不登校を経験し新聞記者となって、さまざまな理由で傷ついた人々と交流し、周囲を癒し、再生してく物語を描く、和歌山県発信の映画『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』。第1回ではさやか役の七海薫子さん、中野広之監督、小林薫さんプロデューサーに映画制作までの道のりと、ロケ地としての灯台についてお話しいただき(第1回インタビューはこちらから)、第2回では、七海さん、中野監督、小林プロデューサーの灯台の思い出を語っていただきました(第2回インタビューはこちら)。第3回となる本インタビューでは、「地元発信の映画を作り続けていきたい」という熱い想いとともに、その取り組みにどのように灯台を組み込んでいくのか。今後の地元発信映画制作における灯台の位置付けやアイデアなどをお話しいただきました。

―言葉が与える影響を大事にしている映画です。みなさんの大切にしている言葉はありますか?

七海薫子さん(以下、七海):好きな言葉は「勇気」と「自信」です。これは私のテーマにもなっている言葉です。言葉がうまく話せなかった頃、いつまでもこのままじゃ嫌だ、変わりたい、どうやったら変われるのかをずっと考え、その方法を模索していました。まずは、勇気を出して一歩踏み出すことが大事と考え、壁に「勇気の積み重ねが大事!」という言葉を書いた紙を貼って、自分を励ましながら生きてきました。本当に変わるためには、自分自身を癒し、ゆるし、受け入れることから始めないと何も変わらない。その思いを表現するために、タイムスリップを取り入れ、昔の自分と対峙するシーンを作りました。

当時は「ダメだ」と思っていたことも、改めて見ると「意外とがんばっていた、一生懸命生きていた、偉かったね」というシーンを作ることで浄化できた部分があります。似たような悩みを持った方に、私が一番観ていただきたいところのひとつです。

小林プロデューサー(以下、小林P):私は普段、保育士の仕事もしているので、「言葉を聞くこと」を大事にしています。

中野広之監督(以下、中野監督):小林さんはとても優しい方で、人を怒ることもないし、悪口も言うこともないんです。だから、どこに言っても愛される。僕はちょっと喋りすぎちゃって、失敗することも多いけれど。

小林P:私も失敗はたくさんあります。むしろ失敗の多い人間です(笑)。でも、聞くことを大事することには、職業柄だけでなく性格も大きく影響していると思います。相手が発信している何かを言葉や表情で拾えると考えているので。この人により深く関わりたいと感じたら、裏側にあるものを理解するよう努力はしています。

―みなさんのさまざまな想いが詰まった「和歌山県発信」の映画が出来上がった今、作品が一つ完成したこの経験を踏まえた次なるプロジェクトの構想などがあれば、教えてください。

中野監督:会社から「こんな作品を作りなさい」と言われて作るものではなく、自分たちの作りたいものをこの10年作り続けてきました。常に考えてきたのは「隣の人に観てほしい作品」であることです。「どうやったら就職できるの?」「自分は一体何者なの?」「将来何がしたいんだろう」。誰もが自分の道を探す中で頭に浮かぶ身近な疑問、悩み、気持ちに寄り添いたいと考えています。映画では最初の5分でさやかの悩みが伝わります。徐々にその気持ちに共感していくなかで、自分の中に「がんばろう」「誰かのためにやってみよう」「諦めなくていいんだ」とさまざまな気持ちが芽生えてくるはずです。感じることはひとつじゃない。いろいろなことを思い、考えてもらえる映画を作り続けたいと思っています。

七海:ストーリーとしては中野監督がおっしゃったことを大切にしながら、和歌山県発であることにもポイントを置いていきたいです。和歌山は本当に魅力ある場所です。雑賀崎灯台を始め、県外からたくさん撮影に訪れる場所が多いスポットの魅力を県発信で改めて伝えていきたいです。地元の人しか知らないスポット、その裏話がたくさんあることを、ドキュメンタリー取材でも実感しました。こんなに和歌山を愛していると言いながら、知らなかったこともたくさんあって、「和歌山って深い」と思いましたし、さらに興味が湧いてきましたし、伝えていきたい気持ちも強くなりました。

―次回作では今回の映画に登場した雑賀崎灯台と下津港の牛が首赤灯台の、新たな魅力が発見できることを期待しています!

七海:やる気がみなぎってきました!

小林P:次に繋げるためにもこの映画をたくさんの方に観ていただきたいと思っています。上映会も積極的に行っていきたいです。

七海:上映会では、私がMCを務めるとともに、撮影裏話などもお話しするようにしています。映画の魅力を存分にお伝えできると思うので、上映会のリクエストも受付しています。映画、そして上映会でのトークを通じて、和歌山の魅力を知ってほしいです。

中野監督:和歌山の魅力はもちろん、描かれる物語も素敵なものになっています。児童文学を映画化してきた経験を活かした作品です。学校などでも上映していただきたいという思いもあります。ご興味を持っていただけたら、ぜひ、ご連絡ください。映画とともに、七海さんがどこにでも駆けつけます(笑)。

取材・文/タナカシノブ

 

『紀州騎士(きしゅうでないとぉ!)』
原案:七海薫子
脚本・監督:中野広之
チーフプロデューサー:小林薫
主催者:文化庁 厚生労働省 和歌山県 和歌山県教育委員会
第36回国民文化祭、第21回全国障害者芸術・文化祭和歌山県実行委員会
キャスト:七海薫子 原田龍二 小西博之 工藤堅太郎