島の子供たちと菅島灯台

2025/07/31 ③島っ子ガイドのシナリオづくりとコースづくり
1)島っ子ガイドにおける菅島灯台のインパクト
「島っ子ガイド」のシナリオは、児童がそれぞれ「大好きな菅島(の宝物)」をたくさんリストアップし、その中から、自分の一番を絞り、一番である理由を明確にするとともに、その資源についての調査を行う。その後、伝えたいメッセージをどのように伝えると、参加者に楽しく伝わるかを工夫して、シナリオ作りを行う。それを、教室や現場で何度も練習する。その過程で、視察などの依頼を受けることで、フェスティバルに向け参加者を前にした実際の練習にもなっている。

「大好きな菅島」を絞った際に、どの学年でも必ず登場するのが菅島灯台である。開始当初の2009(平成21)年の3年生は6人中3人、4年生は10人中7人が宝物として菅島灯台をあげている。

2)島っ子ガイドのシナリオとコース
毎年、フェスティバルでは3 ~ 5つのコースに分かれてガイドを行うが、リピーター客にも灯台に行けるコースが人気となっている。図3は、2011(平成23)年の島っ子ガイドフェスティバルのコースである。この年には、すべてのコースに菅島灯台のガイド案内が入っている。全校生徒で取り組むようになってからは、菅島灯台までの道のりが遠いため、1・2年生のコースには入っていない。

     図3. 島っ子ガイドフェスティバルコース紹介の案内表(2011年)

また、実際のシナリオの例として、表1に抜粋した。これを見てみると、小学校の建築デザインに灯台が取り入れてある様子、小学生が名付けた菅島灯台のゆるキャラの「すがちゃん」、灯台内に収めた卒業記念のタイムカプセル、灯台のための道づくりをしたおじいちゃんの話など、住民が菅島灯台とともに歩んできた地域の歴史のストーリーが語られている。

表1.島っ子ガイドの菅島灯台シナリオ


④島っ子ガイドの効果
この取組は、他校、他地域にも広がっている。学校での指導マニュアルができたことから、「島っ子ガイド」は、2015(平成27)年には鳥羽市立神島小学校、2016(平成28)年には鹿児島県の徳之島でも取り組まれるようになった。そして、2018(平成30)年度刊行の光村図書出版の小学6年生用の道徳の教科書で取り上げられた。

また、海島遊民くらぶが受け入れている公益財団法人国際交通安全学会(IATSS フォーラム)によるアセアン諸国からの研修生や笹川平和財団による太平洋島嶼国からのOJT(※2)人材も、菅島の「島っ子ガイド」を体験し、強く影響を受け、自国での地域の啓発に取り入れられている。

(※2)OJTとは,「On the Job Training」の略語で,海島遊民くらぶでは地域密着型観光の考え方やノウハウについて,実際の業務の中で研修生をトレーニングしている


IATSSフォーラムの研修生をガイドする菅島小学校の児童と鳥羽海上保安部職員(2016.10.20) 出所:海島遊民くらぶ


灯台の保全と地域振興

島っ子ガイドでは、ここでは紹介しきれなかった、経済効果や子供たちの学力向上、住民にとっての誇りの醸成も含めて、多面的な効果が表れている。そして、紹介される彼らの宝物は、親の従事している漁業や町の商店など個人的な思い入れから選ばれることも多いが、その一方で、菅島灯台は、子供たちだけでなく、島民、みんなの共通の宝物として紹介されている。人口減少の昨今において、灯台との関わりを拡大させ、地域との関わりを深くしていくことで、本来の機能以上の必要性を生み出すことができるのではないか。灯台の観光利用では、地域住民との深い関わりから、訪問者と灯台の物語を作っていくことで、灯台を守り、伝える力を拡大し、灯台と地域の相互的な発展が期待できるであろう。


執筆者紹介

江﨑 貴久(1974年2月20日)
■ 出身地:三重県鳥羽市
■ 所属:有限会社オズ(海島遊民くらぶ)
■ 学位:博士(水産経済学)
■ 専門:水産経済・地域経済・観光まちづくり

1997 年家業の旅館海月を引き継ぎ、2001 年エコツアー「海島遊民くらぶ」(有限会社オズ)を設立。伊勢志摩国立公園や鳥羽市エコツーリズム推進協議会会長に就任。漁業と観光の連携を手法に産品のブランド化を手掛ける。


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