日本の灯台の価値を可視化する ~建造物編~

2025/09/02

分析2


ここでは対象灯台について、建築計画学の視点から文献調査をもとに、灯台建設を行う手段に関する選択がいかに行われたかを明らかにした。具体的には、構造別に設計や施工時になされた判断や工夫及びその理由について、文献にて明確なものは記載し、不明なものは文献の文脈や他の情報から推測し整理した(※4)。(表1)例えば、石造り灯台については、本州の南・東岸は安山岩、一部東北地方産の凝灰岩、瀬戸内海や九州では花崗岩が採用された。現在では輸送技術の発達により、石材は機械や車両で運搬可能だが、当時は船や人力による運搬が主で、現地に近い石切場から調達した。そのため、灯台に使用された石材には地域の石の特徴が反映されている。また、明治初期には、スチブンソン兄弟(※5)の設計図を基にした灯台建設や、日本の工部省が雇った外国人技術者による煉瓦製造の指導、セメントモルタルの代替素材として石灰モルタルを使用するなど、日本が灯台建設の技術を持たなかったために西洋技術の導入や代替が行われた。煉瓦製造技術の伝播は、灯台のみならず多様な建造物への煉瓦使用を促す契機となり、日本の建築史における重要な出来事であったと考察できる。また、石灰モルタルの使用など、当時特有の建材や技術が採用された点は、その時代特有のものとして、価値を高める要因となり得る。

(※4)表1において、文献にて明らかでない情報については、「仮」として記載した
(※5)スチブンソン兄弟は、エディンバラの北部灯台委員会の技師であり、駐日公使のハリー・パークスからの依頼により、日本の灯台建設の事務全般を担当した。ブラントンを採用し日本に送り込んだ人物である


考察

分析1で行った時代区分に基づき、各灯台の建造物としての特徴を形成する背景要素を整理し、国内灯台の価値を捉える視点を体系化した(表2)。

例えば、強度保持に着目すると、煉瓦造灯台ではフランス技師フロランが監督した灯台がフランス積みや平積みであるのに対し、ブラントンや日本人による建設灯台はイギリス積みである。当時、日本は灯台の建設技術を持たず、西洋灯台導入の試行期の日本では、海外技術者の指導を受けたため、技術者の母国文化が灯台建設に影響を与えたと推察する。その後犬吠埼灯台や御前埼灯台では、西洋には見られない二重殻構造が導入された。耐震のためであるのか除湿のためであるのか、目的は明らかではないが、これは地震国という環境に適応するために独自に模索されたのではと考えられる。その後、災害大国型の創出期及び普及期にかけて、使用素材そのものがコンクリートへと移行した。

また、北海道で鉄造灯台が多く建設された背景には、建設が進んだ時期と製鉄業の興隆が重なっていたことがある。運搬が容易で取り扱いやすい鉄材は、石切場が少なく資材が限られており、雪により冬季の施工が困難な北海道において最適な素材であった。

結論

以上のように、灯台建設は時代背景や国家間の関係、国内の状況等と密接に関連しており、これらの要素を総合的に考察することが重要である。本論では、灯台の構造部分に着目し整理したが、今後の研究においては、設備や意匠など視点の追加ならびに、対象灯台の範囲拡大を通じて、フレームワークの精度向上及び改良を図ることを検討する。

謝辞

下関市教育委員会教育部文化財保護課の髙月鈴世氏、第七管区海上保安本部の皆様には、調査遂行にあたり多大なご協力をいただきました。ここに深謝の意を表します。また、大内さおり氏には、日々温かい励ましとサポートをいただきました。
本当にありがとうございました。


引用文献

・大槻達夫(2006)灯台の保存活用に関する研究:我が国における灯台の現状、建築、2006、395-396.
・大槻達夫(2008)地域的視座からみた灯台の役割に関する研究、建築、2008、399-400.
・鈴木凜香(2021)灯台の多目的利用の促進に関する研究―灯台50選と北海道の灯台を対象として、建築、2021、17-18.
・谷川竜一(2016)「灯台から考える海の近代」。京都大学学術出版会、80p.


執筆者紹介

石丸 優希(1988年12月1日)

■ 出身地:北海道札幌市
■ 所属:うさぎ設計
■ 学位:修士(建築都市計画学)
■ 専門:コミュニティの懐に入ることから始めるまちづくり

北海道大学大学院修了後、北海道庁で建築技術職に従事。結婚を機に退職し、引越し先の山梨ではオーガニックファームのイベントサポートや古民家コミュニティスペースの管理に携わる。現在、札幌市で子育てをしながら都市計画やまちづくりのプロジェクトに従事。

池ノ上 真一(1973年11月16日)

■ 出身地:大阪府堺市
■ 所属:北海商科大学 教授
■ 学位:博士(観光学)
■ 専門:都市・地域計画、観光まちづくり、地域マネジメント

「技術の人間化」を理念とする芸術工学を学ぶ。竹富島や日本ナショナルトラストで観光を活用した地域づくりに従事し、北海道大学准教授を経て、現在は北海商科大学教授・日本海洋文化総合研究所代表理事。


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