“海風トラベラー”と“灯台時間”で描く新しい旅のかたち 「海と灯台サミット2025」を開催しました

2025/10/29

テーマ1「『海風トラベラー』は灯台を目指す」

1つめのトークセッションは、海辺を移動しながらその土地の風や光、出会いを味わう――そんな“海辺を旅する人”を意味する「海風トラベラー」という新しい概念をもとに、旅を楽しむ人の視点から灯台の魅力を考えました。

一般社団法人グリーンスローモビリティ協議会理事⾧の三重野真代さんは、大分県の関崎灯台で、ゆっくりと海風を感じながら走る小型電動車「グリスロ(グリーンスローモビリティ)」を二次交通として活用している事例を紹介。「移動には、目的地へ行くための“派生的需要”と、移動そのものを楽しむ“本源的需要”がある。本源的需要の乗り物は、トロッコ列車や馬車など“オープンな乗り物”。風や海の匂い、鳥の声などを五感で感じながら移動すると、脳も心もすごく楽しい」と語り、灯台に向かう道そのものを「体験」としてデザインする意義を強調しました。伊沢さんは「車に乗るときに窓を開けたり、オープンカーを借りて走ったりすると、体験が全然違ってくる」と自身の体験を重ね、「街によって風の匂いや音が違っていて、そこにリピートしたくなる旅の楽しさがありますよね」と話しました。

北海道開発技術センターの中村幸治さんは、能登半島の禄剛埼灯台を訪れた際に感じた感動を振り返りつつ、北海道で進める「シーニックバイウェイ北海道」の活動を紹介しました。「シーニックとは“景色の良い”、バイウェイは“寄り道脇道”。目的地だけでなく、道中の寄り道こそが旅を豊かにする」と語り、灯台を活かしたドライブ観光の可能性に言及しました。さらに、「現地に行かないと手に入らない灯台カードや、そこに行かなければアクセスできないQRコードなど、さまざまな仕掛けで道中を楽しんでもらい、ワクワク感を抱いたまま灯台に向かってもらえたら良いのでは」と提案しました。伊沢さんは「旅の目的地となり得る場所は限られているが、寄り道や脇道は人によって見る場所が全然違うから、無限の観光地になる可能性がありますね」と応じました。

バイク愛好家で動画クリエイターのせんちゃんは、ライダーとしての実体験を踏まえて「ライダーにとって走ることが旅の主役。風の匂いや場所による温度の変化などを五感で感じながら移動できるのがバイクの楽しみです」と話し、「ライダーはこの道を走ろうと決めてから、その道の近くで目的地を探す。主役は道なので、まさにシーニックバイウェイですね」と感想を述べました。さらに、「灯台には夕日が合う。そこにバイクがあればかなり映える」と話し、「よい写真が撮れる撮影ポイントの情報と、駐輪スペースや休憩スポット、トイレの情報などがあるとライダーが立ち寄りやすく、SNSでの発信も増えるのでは」と、環境整備と情報発信の両立を提案しました。伊沢さんも「季節や時間帯によって撮れる写真が違うはず。どの時期にどんな写真が撮れるかを発信すれば、“次はこの写真を撮りに行こう”と、何度も来たくなる灯台になりえる」と語り、リピーターを生む仕掛けの重要性を示唆しました。

セッションの終盤には、三重野さんが「観光の世界では“見る(Seeing)”から“する(Doing)”、そして“ある(Being)”へと価値が移行している。灯台は自分を見つめ直す旅の場所として、学びや気づきのあるデスティネーションになりうる」と述べました。中村さんは「灯台がある地域の人々が、そのことに誇りを持てるような文化を根付かせたい。灯台が持つ歴史性、周辺環境も含めた景観性、バックボーンなどをどう伝えていくかが大事」と語り、せんちゃんは「コレクター向けの灯台カードがあれば、ライダーは必ず行く。さらに、灯台の近くにカフェや集いの場が生まれればコミュニティづくりにつながり、また来たいと思う人も増えるのでは」と続けました。伊沢さんも「発掘した地域の魅力をどう伝えるのかが大事。旅が好きな人が、そこまで熱量の高くない人を巻き込んでいけると、一気に灯台に行く人が増えると思うんですよね。地域の魅力をどうプレゼンしていくかは、僕のようなメディアに出ている側の人ががんばらなきゃいけないなと思いました」と応じました。