“海風トラベラー”と“灯台時間”で描く新しい旅のかたち 「海と灯台サミット2025」を開催しました

2025/10/29

テーマ2「#灯台時間 ~海の体験をアップデートする試み~」

2つめのトークセッションでは、“灯台に着いてからどう過ごすか”という時間の過ごし方に焦点を当てました。訪れることそのものが目的だったこれまでの灯台体験を、より豊かに味わうため、このパートでは「癒し」「歴史」「食」という3つの視点から、灯台の新しい魅力を掘り下げました。会場ではまず、各地の灯台で行われている取り組みを紹介する映像が上映され、それぞれの映像をもとに登壇者が専門分野の視点からコメントを寄せました。

岩崎ノ鼻灯台(富山県高岡市)からは、「灯台×癒し」をテーマに地域の魅力を再発見する「伏木エリア魅力発掘プロジェクト」の活動が紹介されました。能登半島地震で被害を受けた伏木地区に立つこの灯台は、富山湾や立山連峰を望む絶景の地に立っています。プロジェクトのメンバーが投げかけた「なぜ絶景を見ると癒されるのか」という疑問に対し、立正大学心理学部客員教授の内藤誼人さんは「人類は何十万年も自然と一緒に暮らしていたので、自然豊かな場所にいると自然に心が落ち着いたり、癒されるようになっている」と説明。「自然は写真と違い、刻々と変化していく。その変化や風の音、目に入る風景が脳を刺激して、癒しの効果を持つ幸せホルモンの分泌にもつながる」と解説し、灯台での過ごし方について「一人で座り、のんびりと風の音や海の匂いを感じるのがおすすめです」と述べました。

長尾鼻灯台(鳥取県鳥取市)からは、「灯台×学び」をテーマに、弥生時代の遺跡や北前船の往来、さらに夏泊地区で400年以上受け継がれる海女漁など、海と人の関わりを後世に伝える活動が紹介されました。「歴史がある場所の楽しみ方とは」という現地からの問いかけに対し、お城好きで知られる気象予報士の久保井朝美さんは「歴史を楽しむときは“視点と仮説”が大事」と提言。「大好きなお城巡りをする時には、行きは攻める視点、帰りは守る視点で望むと、当時はこうだったのではないかという仮説が生まれ、お城をよりリアルに味わえる」と解説しました。続けて、「灯台も『なぜここにあるのか』という視点で見ると、海の難所なのか、風向きや港との関係はどうなのかなど仮説が生まれ、そこから物語が立ち上がっていく」と述べ、「そこに地元の食が加わると、より旅の楽しみが広がっていく」と旅の楽しみ方を提案しました。

佐田岬灯台(愛媛県伊方町)からは、「灯台×水産資源」の可能性を探求する「トウダイモトウマシ探求プロジェクトinえひめ」の活動が紹介されました。「灯台は潮流が速く、海底や地形が複雑な“海の難所”にあるが、だからこそ足元に豊かな漁場と上質な海産物がある」と話すプロジェクトメンバーに、紀行作家の山内史子さんも「『トウダイモトウマシ(=灯台下旨し)』は素晴らしいキーワード。私も仲間に入れていただきたい」と賛同。「海流や地形によって海の特徴はその場所ごとに異なり、同じ魚でもとれた場所によって味が違う」と指摘し、「灯台とその下の海、そこでとれた魚をつなぐ物語性が生まれるとインパクトがある」と評しました。

シンポジウムの最後には、伊沢さんが全体を振り返り、登壇者の言葉や映像で紹介された各地の取り組みを総括。「旅に『灯台』という焦点を定めることによって地域の人や文化が見えてきて、奥行きを感じられるのだと感じました。楽しみ方をたくさん提示していただきありがとうございました」と「灯台×旅」の可能性に期待を込めました。

シンポジウムのほか、初日には学術研究者らが登壇し、灯台の文化的・地質的価値や観光との関係を多角的に考察する学術会議「海と灯台学カンファレンス2025」が開催されました。「旅の目的地としての灯台が創る未来」をテーマに、考古学や歴史学、地質学、地域計画学などの視点から、持続可能な観光や地域づくりに向けた研究成果や課題が共有されました。

また2日目には、「海と灯台プロジェクト2025 中間報告会」が行われ、持続可能な灯台利活用事業の開発に取り組む全国13団体が、今年度のこれまでの取り組みと今後の見通し、期待する成果などを発表しました。

これらの内容については、後日「海と灯台プロジェクト」公式サイトにてレポートを掲載する予定です。

このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
「海と灯台ウィーク2025」特設ページ:https://toudai.uminohi.jp/toudai-week2025/

 

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