灯台の利活用の可能性

海と灯台アライアンスグループについて

海と灯台アライアンスグループについて

「灯台」の魅力を多様な世代に伝えるためには、新たな「灯台」の利活用ニーズの掘り下げと全国レベルで展開できるコンテンツの開発、賛同する事業者との連携が必須です。そのような異業種・異分野との連携を促進するアライアンスを構築します。

有識者インタビュー

地域振興

有識者インタビュー

地元に愛されているのは航路標識以上の価値が灯台にはあるから

日本交通公社観光政策研究部 戦略マネジメント室研究員 小坂 典子

学生の頃から島巡りを楽しんでいたので、灯台の思い出は多いです。地元の方と話すと、みなさんの思い出の中にも必ず出てくる。灯台がアイデンティティの一つになっていると感じます。モノというより、思い出そのものなのです。
個人的なイメージは2つあります。例えば寂寥感を感じるところ。昔はもっと栄えていただろうな、と。もう一方はまちに近く、地域の生活とともにある灯台。そんな風景を見て思うのですが、地元の人は機能を重視していないんじゃないでしょうか。みなさんの灯台への思いは、モノというよりヒトに対する感情に近い。だからこそ地方活性の視点で見ても、灯台はこれから活用していくべき存在なんです。人の思いが蓄積されているものがなくなったら、空っぽになってしまう。灯台があることで他の人とのかかわりが生まれたりしたのですから。
大事なことは灯台が地域の人にとってどんな存在だったかを、外の目線でも掘り起こすこと。そして継続して活用することです。そのためには地元の産業と結びつくことは重要。また灯台はアクセスに難がある場所が多いので、その場所ならではの価値を作ることも大切です。決して簡単ではありませんが、例えば地元の特産品に付加価値をつけるやり方は今や一般的です。新しいアイデアを取り入れながら、今に生きる「灯台」を一緒に生み出していきたいです。

ローカル鉄道

有識者インタビュー

近代日本を作ってきた灯台とローカル鉄道を新たな“憧れの場所”に!

えちごトキめき鉄道代表取締役 鳥塚 亮

ローカル鉄道と近代灯台は歴史が同じくらいですよね。そこに共通点があると思います。世の中が変化し、ローカル鉄道も建設当初の役割は終わっている。そして沿線の町を見渡すと廃れているんです。では、町もローカル鉄道同様に役割が終わっているかと言ったら、そうではありません。時代に合わせた使い方があるはずなんです。だから我々ローカル鉄道もイベント列車を走らせたりして、多くの方に振り向いていただくためのツールにしようとしている。
灯台も、航路標識としての役割が終わったとしても別の方法があるはずです。個人的なイメージで言うと、灯台は先端にありますよね。そういう「最果て」に行ってみたいと思う人は多い。それに、そもそも「海」そのものに価値があって、そこにつながっているのが灯台。その景色には普遍的な価値があると思います。
だから、灯台が憧れの場所になればよいんです。「やっと来れた」と思える場所にする。例えば買物には日用品と買い回り品の2 種類がありますよね。買い周り品は趣味のものだったりするから滅多に買わない。でも本当に欲しければ、多少高くても手に入れます。「憧れの場所」とは、そういうこと。人生にはそういうことが必要だし、僕らローカル鉄道が目指しているのも、「憧れの場所」になることです。灯台にも同じことが言えるのではないでしょうか。

グランピング

有識者インタビュー

眺めていたい灯台はキャンパーにとっての焚き火のような存在

ABC Glamp&Outdoors 代表取締役COO 吉村 司

10年ほど前に淡路島でキャンプ場を始めたのが我々のスタート。漁港の隣だったので、灯台はいつも見えるところにありました。キャンプをしながら灯台を見ていると、「焚き火のようなものかも」と思ったりします。暖を取ることと船の安全を守ることが本来の目的ですが、同時にずっと眺めていたい存在なんです。そういう意味でも非常に面白い観光資源だと思います。アウトドア事業の観点から言えば、ロケーションそのものが魅力的ですしね。
ただし灯台でキャンプをしようとしたら検討材料は多い。トイレやシャワーをどうするか? 食事は? 安全面や天候の変化に対する危機管理は? 筋金入りのキャンパーであれば必要はないかもしれませんが、我々が手がけているのは、一般の方に自然を楽しんでいただくグランピング。そのための最低限の設備は必要です。ただ考え方次第でもあります。日本には3000もの灯台があるんですよね。そのいくつかをキャラバンする企画であれば、対応できる可能性も高くなる。灯台をモニュメントとしたグランピングパークのようなものも考えられます。
そう考えると灯台には観光資源としての可能性が大いにある。それに多くの人は、灯台のある風景をすぐに思い浮かべることができると思うんです。そのイメージに応えられる世界観を提供できれば、すごく面白いことができるのではないでしょうか。

映画・ドラマ・ロケ

有識者インタビュー

灯台という存在が映画やドラマの物語を際立たせる

雑誌「ロケーション・ジャパン」編集長 山田 実希

灯台に行けば、きっと綺麗な風景があると思えるんです。自分が出かけた中で印象に残っているのは角島灯台(山口県)。『四日間の奇蹟』という映画のロケ地ですが、作品に教会として登場するのが灯台の公衆トイレ。びっくりしましたね!その時に隣接する資料館を訪ね、歴史を知り、灯台への興味が増しました。理由は「人を感じた」ということ。ただの建造物ではなく、「人を守るために光を灯している」ということに温かさを感じました。
映画の舞台として印象的だったのは『悪人』。ロードムービーですが、その終着地点が大瀬埼灯台(長崎県)。同作の李相日監督にインタビューした際、「逃亡劇なので最後に行き着く象徴的な場所が必要でした。あの灯台でなければ成立しなかったと思います」と。そういうストーリーを際立たせる存在として、灯台は魅力的だと思います。また歴史的建造物としての魅力もありますよね。映画やドラマには時代考証が欠かせませんが、「この灯台は何年製です」とわかれば、製作者のイマジネーションも広がると思います。
そして、なんと言っても灯台のある風景は絵になる。ロードムービーであれば、灯台を舞台にするだけで説明しなくても最果て感が演出できる。灯台はドラマが生まれやすい場所だと言えます。

サイクリング

有識者インタビュー

景色を楽しみながら走る自転車は灯台巡りに最適!

自転車業界誌「月刊サイクルビジネス」編集統括 前田 利幸

自転車と海岸線はセットのようなもの。メッカと言って良いと思います。ただ、これを地域活性や灯台の盛り上げにつなげるのであれば、人をより集めることが必要。愛知県知多半島で開催されている伊良湖岬灯台を巡るイベントは有名です。観光業者とも連携し、毎年大いに盛り上がっています。
もちろん、イベントがなくても灯台と自転車の親和性は高いと思います。自転車の魅力の一つは風景を楽しみながら移動できること。景観を楽しむ意味では、非常に優れた交通手段なんです。だから海岸線は人気がある。そのことをもっとPRすべきですね。その意味では今は大きな流れの中にあります。一つは2016年に施行された自転車活用推進法。国民の健康推進と環境配慮の面から自転車を活用しようというもので、各自治体が自転車を活用した観光などを企画・実施すると補助金助成がある。これを活用する機運はあるのですが、地域によっては自転車に不向きな場所もある。それをフォローするのが「Eバイク」という、スポーツタイプの電動自転車。一般的な電動自転車よりパワーも電池寿命も長く、観光向き。そんなEバイクのレンタルがあれば、もっと気軽に灯台サイクリングが楽しめると思います。灯台と自転車という組み合わせで楽しむ人が増えるのは、とても意義のあること。どんどん展開していって欲しいですね。

サブカルチャー

有識者インタビュー

コンテンツ化することで、若い世代と灯台を一緒に盛り上げていく

大阪成蹊大学 芸術学部長映像監督 糸曽 賢志

灯台を活用し、さらなる活性化を生み出していくために「コンテンツ化」を提案しています。例えば、2015年のゲーム配信からスタートした「刀剣乱舞」は多くの女性ファンを獲得し、社会現象と呼ばれるほどのメガコンテンツとなりました。刀は全国に点在しますが、それを「コンテンツ化」することで点が線となり、大きなムーブメントとなったわけです。こうした動きは、灯台でも作り出すことができるのではないかと考えています。一方、現在は大学で教鞭を取らせていただいておりますが、そこで感じるのが「若者は未来に希望を抱いていない」ということ。その背景には、成功体験が少ないということが挙げられます。そこで彼らの自信になって欲しいと考え、2019年度には国内51基の灯台をアニメーションイラストにした絵葉書を学生とともに制作。「灯台を巡ろう!キャンペーン」のノベルティとして配布いただくことで、メディアにも取り上げられました。こういう実績が彼らの自信に、ひいては希望につながっていくと思います。
今後も灯台それぞれが持つ歴史やストーリーを若い世代とともにコンテンツ化することで、灯台の文化価値創造に貢献していきたいと思っています。

食文化

有識者インタビュー

灯台は地域の文化と食を育む大切な要素

食文化研究家 向笠 千恵子

私のテーマは「食」ですが、取材や調査ではそれが生まれた風土や生産者の思い、歴史を理解したいと思うので、時間の許す限り周辺を見て回ります。もちろん灯台もその対象。忘れがたいのは新人の頃に出かけた島根県の出雲日御碕灯台。滋賀県にルーツを持ち、島根で親しまれている「津田かぶ漬」を取材したのですが、干している津田かぶを撮影した時、後方に灯台が見えたんです。どうしても近くから見たくなり、タクシーで駆けつけました。
食の歴史… 北前船と食の街道について調べると、例えば北海道江差町の鴎島灯台のある港などから昆布やニシンが西回りで全国に広がった歴史がありますよね。また灯台の麓に漁村があれば、独自の魚食文化が栄えていることもあります。和歌山県雑賀崎の「灰干しさんま」は対岸の四国鳴門で発明された「灰干しわかめ」を応用したもの。この「灰干しさんま」を作っている集落の先端に無人の雑賀崎灯台があります。私が尋ねた頃はあまり活用されていませんでしたが、最近では灯台近くの港でフリーマーケットが始まり、賑わっているそうです。
全国の漁港や港町を訪ねると、その近くには灯台がある。そして地域のみなさんと話すと、記憶の中に必ず灯台が息づいている。地域の文化はそうやって育まれるもので、それは食も同じ。その意味でも灯台をいつまでも守り伝えていただきたいです。

2020年度のモデル事業

「灯台」の利活用の新たなモデルを示し、全国展開を模索するため、「灯台に宿泊をパッケージ化する」「灯台同士をつないで道をつくる」「灯 台をイベントの場として活用する」「灯台を社会教育施設として活用する」という4つの視点から、新たなモデルづくりを地方自治体とともに行います。

4つのモデルエリアでは、10~11月を実施時期に据え、地域の多様な協力者を募り、地域ごとに実行委員会を組成。「灯台」の新たな利活用体験を地域ぐるみで創り出していきます。そして今回の取組を参考に、来年度はエリアを拡大。さらなるモデル事業の創出を目指します。

2020年度のモデル事業