灯台の光

2020/03/25

灯台の一番の魅力は光だ。それは灯台の役割を考えても納得がいく。

灯台は夜、目覚めて私たちが寝ているときに海を見守る。そんな灯台に私は心底惚れ込んでいる。

 

初めて灯台を意識したのも、光がきっかけだった。もう10年以上も前。夜、暗い海浜公園で海を眺めていた。

まぁ、察しの通り。一人で海に行くなんて、なんかあったからなんだけど。そう、方向音痴なもんで、やっと着いたら夜だった。

そして「ひとり時間を満喫」という度胸のキャパを超えてビビっていた。

夜の海は怖い。

「こわーい!」とかじゃなくて、「あ、これ怖いやつだ」って感じて怖い。

早く帰らなきゃ。そう思った。

そんなとき、飛んでくる光を見つけた。

ヒューン ヒューン ヒューン

流れ星の尾みたいな光の帯が、一定のタイミングで飛んでくる。暗い海で、その光は呼吸をしているみたいだった。いまはそれがなぜかわかる。その灯台が電球の光を「フレネルレンズ」で閃光させていたからだ。

 

フレネルレンズというのは、灯台の光を遠くまで届けるために発明されたもの。いまから約200年前にフランス人のオーギュスタン・ジャン・フレネルが発明した。

 

虫眼鏡で太陽の光を集めると、1点に集中して黒い紙に火をつけることができる。

 

フレネルレンズも光を集めるのだが、虫眼鏡の凸レンズのように分厚くせず、レンズの表面の部分をプリズム状にカットして組み合わせたもの。

 

その姿は同心円状にカッティングされた宝石のように見える。これにより凸レンズよりも薄く軽量化が図れ、灯台のレンズとして採用することができた。

 

フレネルレンズ が発明される前は、パラボラアンテナのようなお椀で光を前に反射させていたのだが(その前は、シャンデリア状にろうそくを灯していた)、そうした光は弱々しく、見えたり見えなかったりした。

写真:ロンドン科学博物館所蔵

フレネルレンズをつかった灯台の光は、力強く、遠くまでしっかり届くことで海難事故を減らすことができた。

その後世界中の灯台で採用され、海の安全に貢献した。救われた命はいったいどれくらいあるのだろう。

現在フレネルレンズの灯台は、徐々に減っていて、代わりにLED灯器などメンテナンスに手のかからない光源の灯台が増えてきた。

LED灯器で光を放つ灯台は、光の明滅に余韻はない。パッと光って、スッと消える。それに比べてフレネルレンズを回転させている灯台は、余韻が長い。

ふうわり、ふうわり…生きて呼吸をしているみたいだ。

10数年前、怖くて暗い海で灯台の息遣いを感じた。怖くて不安だったのに、その光がすごく優しかったおかげで、なんだか大丈夫って思えた。

 

小さいとき、抱っこしてくれる手が、私の呼吸に合わせて背中をトントンしてくれたみたいに、灯台の光が私をトントンしてくれた。

 

それ以来、灯台が好きなんだ。

灯台は生きている。だからこれからも、100年後も変わらず、光を放っていて欲しいと願う。