灯台は地上の星

2020/04/01

むかしむかし、まだ地球上に灯台が建てられていないころ。人は星を見て航海をした。

オセアニアに伝わる伝統航海術では、数百の星に名前をつけ、水平線から昇る順番や並びを覚え、南十字星をつかって緯度を求めた。そして風向き、波のパターンも手掛かりに航海をしたという。

 

その技術、そして勇気に感服する。

私事だが、昨年末に船舶免許を取得した。10年前から取りたいと思いつつ、忙しさを理由に後回しとなっていたが、いざ講習に申し込むと、取得まではあっという間だった。

私がとった2級小型船舶免許は、小型船を海岸から5海里(9.26㎞)内で操船することができる。学科講習と実技講習を各1日受け、国家試験に臨んだ。試験勉強なんて久しぶりだが、これがかなり楽しかった。

学科講習では分厚い教科書を1日で理解しなくてはならず、覚える量もかなりあるが、灯台に関する問題もでる。こんなワクワクする勉強は他にない。

 

先生から灯質(灯台の光かたの周期)について問題を出されると、食い気味に手を挙げ、鼻息荒く回答し、関係ない灯台知識まで披露した。

実技講習もかなり興奮した。船の点検や、係留の方法を覚えたあとは、すぐに港内からでて操船の練習に移る。車の免許でいうと、初日から一般道路を運転するようなものなのだからかなり怖かった。

私は神奈川県浦賀のマリーナで受講したのだが、ここはアシカ島灯台が近い。

実際には操船に必死で、灯台を眺めるなんて余裕なんてなかったが、灯台の近くで操船できるなんて、私にとって夢のようなことだった。

合格率は高い資格だが、試験は覚えておかないと解けないものが多い。ぜったい合格したかったので、問題集を全部解き、家族が呆れるほどロープワークを練習し、なんとか無事に取得に至った。

なぜこれほどまでに船舶免許を取りたかったかというと、「灯台の利用者」になりたかったからだ。

この十数年、船はGPSで位置がわかるようになった。そして「灯台はもう必要ないのでは?」という意見になんども出くわした。そんなとき、「灯台が好き」と主張するだけではなく、「灯台は必要」と説得できる立場になりたかったのだ。

今後、どんなに機器が発達しても「灯台は必要」。これは事実。人の命を守るためのバックアップはいくらあってもいい。無駄を省くという考え方だけで、人は幸せになれない。

それにね、もし夜空から、毎晩ひとつずつ星が消えていったらどう思う?

未来に生きる人たちが、星を見上げることができなかったら?

灯台は地上の星だ。

航海にも必要だし、人生という旅を充実させるためにも必要。

だから願う。

もうこれ以上、地上の星の光が消えませんように、と。