灯台の光が島にもたらしたものとは?『映画おしりたんてい スフーレ島のひみつ』プロデューサーインタビュー

2021/08/17

見た目はおしり、推理はエクセレントな名探偵おしりたんていが活躍する『おしりたんてい』劇場版第3弾『映画おしりたんてい スフーレ島のひみつ』が公開中。物語の舞台は、大きな灯台のある「スフーレ島」。海の中から切り立った崖で囲まれたスフレケーキのような形をしているこの島には、一年中風が吹き、人々は風に乗って空を飛びながら生活をしています。その島に暮らしながら、島の外の世界を夢見る女の子ルルを鈴木梨央さんが演じています。

ルルは風に乗る能力は高いのですが、好奇心旺盛でスリルを求めすぎるあまり、たびたび家族に怒られてしまう“おてんば娘”。そんなルルの一家は島の大灯台にある「風のみちしるべ」という光る石を守っています。風が吹く島で大切な役割を果たしている「風のみちしるべ」をかいとうUから守るため、ルルをはじめとする灯台守りの一族とともに、おしりたんていたちが大活躍します。映画で重要な役割を果たす「灯台」にまつわるお話を、東映アニメーションプロデューサー・谷上香子さんに伺いました。

(C)Troll/POPLAR
(C)2021東映まんがまつり製作委員会

--本来の役目を失い、今の子どもたちには役割が判らない建物になりつつある灯台が映画で重要な舞台として描かれることについてどのような印象を抱かれましたか?

谷上プロデューサー(以下、谷上P):本作の舞台である「スフーレ島」の中心には大きな灯台があります。灯台に据えられた「風のみちしるべ」という石が発する光は島の住民の生活にとって欠かせないものです。島民の主な移動手段は島に吹く風に乗って空を飛ぶことなのですが、灯台の光を頼りに風を読み、空を飛んでいます。

今回、この「風のみちしるべ」が怪盗に狙われてしまうのですが、島民にとって当たり前にあると思っていたものを盗まれてしまうと一体どうなるのか、灯台の光が島にもたらしていたものを意識するようになります。この映画を通じて、おしりたんていや島の少女ルルと一緒に、建物としての灯台ではなく、遠くを照らすという本来の役割について改めて考えることができると思います。

--原作のトロル先生や、脚本の高橋ナツコさん、脚本協力の成田順さんと灯台の描き方について、どのようなお話をされましたか?

谷上P:今回の舞台のイメージは地中海沿岸の崖の上に立つ街を参考にしています。シナリオを作っていくうえでいろいろな映像や資料を見ながら、高橋さん、成田さんに映画の舞台を膨らませていただきました。原作には出てこないアニメオリジナルの場所なのですが、トロル先生にも、アニメならではの設定として事前にご確認いただきました。島全体の美術としてだけでなく、物語の中でも灯台は重要な役割を持っているのですが、ラストの灯台の見せ方にもこだわりました。

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--灯台をいろいろな角度から楽しむことができました。

谷上P:スフーレ島の造形や、灯台をどのように描くかについては座古明史監督や美術デザインの増田竜太郎さん、美術監督の東美紀さんをはじめとした制作スタッフが作り上げました。今回、灯台のてっぺんで「風のみちしるべ」をめぐる攻防戦が繰り広げられますが、下からのぞき込んだり、駆けおりたり、飛び回ったりと、灯台を中心とした様々なアクションがありますので、色々な見え方ができると思います。

物語の後半で灯台はさらに重要な役割を担うことになるのですが……すみません、ネタばらしになってしまうので、あまり詳しくお伝えできないのですが、ぜひ灯台にも注目して映画を観ていただきたいです。

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--鈴木梨央さん演じる女の子・ルルを通して、灯台守りの役割がわかりやすく伝わる気がします。

谷上P:ルルの家族は代々、島の灯台と「風のみちしるべ」を守る灯台守りという役目を伝えてきたのですが、それをきちんと受け継ごうとする兄のルカとは対照的に、ルルは灯台や「風のみちしるべ」なんてなくても飛べる、と思っています。映画では、灯台を中心にルルとその家族の関係、ルル自身の葛藤や心の成長が描かれます。

ルルは灯台のふもとや中で度々おしりたんていと会話を交わしますが、そのたびにルルの心は変化していきます。大胆な変化から、繊細な感情表現に至るまで、とても魅力的なルルを演じていただきました。ご覧いただいた方にも共感してもらえるキャラクターになったのではないかなと思います。

--谷上P自身の灯台の思い出があれば教えてください。

谷上P:横浜の馬車道にある学校に通っていた頃に、みなとみらいから大さん橋周辺の灯台をよく目にしていました。この映画に登場する灯台は、遠くからでも良く見える背の高いものなのですが、横浜港の灯台はもっとこぢんまりとしていて、建物や橋などの景色の一部に溶け込んでいます。それでも、横浜の歴史の一部であることを感じさせる存在感がありました。

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--映画の見どころをお願いいたします!

谷上P:遠出したり旅行に出かけたりする機会が少なくなってしまった今、映画を観ているひとときは、おしりたんていたちと一緒にスフーレ島を訪れて、風に乗って空を飛んでいるような気分を味わってもらえると良いなぁと思いながらこの映画を製作しました。おしりたんていがかいとうUから島の宝「風のみちしるべ」を、島の灯台の光を守れるのか? 映画ならではの迫力あるアクションとともに、美しい美術や音楽も楽しみながら、おしりたんていの活躍を楽しんでいただければと思います。

同時上映の『深海のサバイバル!』は、好奇心旺盛なジオ、ピピが、海洋学者のコン博士と共に潜水艇で深海へ潜り、様々なピンチを切り抜ける、手に汗握る冒険アクションです。深海ならではの現象や生き物と出会い、そして絶体絶命の事態に立ち向かうジオたちの活躍もお見逃しなく!

 

『映画おしりたんてい スフーレ島のひみつ』
公開中
【スタッフ】
原作:トロル「おしりたんてい」シリーズ(ポプラ社)
監督:座古明史
脚本:高橋ナツコ
脚本協力:成田順
制作:東映アニメーション
【キャスト】
三瓶由布子 齋藤彩夏 杉村憲司 池田鉄洋 小西克幸 中村まこと 櫻井孝宏 渡辺いっけい
鈴木梨央 千葉繁 神谷浩史 神谷明
公式サイト:https://www.toei-mangamatsuri.jp/

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取材・文/タナカシノブ