灯台ファン必見『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』美術監督に聞く灯台登場秘話【カナリア諸島 プンタ・デルガーダ灯台】
2022/07/071979年にテレビ放送されてから43年。今も新たな作品が作り続けられているガンダムシリーズ。現在公開中の映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(監督:安彦良和)は、そんな作品群の大元となった最初のテレビシリーズ『機動戦士ガンダム』の1エピソード(第15話)をベースにした映画になります。
©創通・サンライズ
とある無人島での残敵掃討任務が言い渡され、ホワイトベースから出撃した少年アムロ・レイ。しかし、その島で遭遇したモビルスーツ、ザクとの戦いの中、アムロはガンダムと共に海へ落ちてしまいます。その翌日、島の灯台で目覚めたアムロは、自分が捕虜として捕えられていないことに気づきます。そこで出会った、荒れ果てた島の大地を耕す子どもたちと、彼らが慕う男ククルス・ドアン。彼があのザクのパイロットなのか? 島での暮らしが1日、また1日と過ぎていく中、ドアンの秘密が徐々に明らかになっていきます――。
https://www.youtube.com/watch?v=JNvnkkri_qM&t=281s
この作品に登場する島は、アフリカ大陸の大西洋沖に浮かぶカナリア諸島のひとつ、アレグランサ島がモデルになっています。また、ドアンと子どもたちが暮らしている灯台も、その島に実在する「プンタ・デルガーダ灯台」(1865年建築)になります。灯台の名称は作中に登場しませんが、島の形状や灯台の外観などはほぼそのまま。そこで、舞台装置としてさまざまなシーンで登場するこの灯台を作中で100枚近く描いたという本作の美術監督、金子雄司さんにお話を伺いました。
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――この島や灯台が登場することは、今作の制作当初から決まっていたのでしょうか?
金子:安彦さんと初めて打ち合わせをした席で、安彦さんが「いい島みつけちゃったよ」って言ってきたんです。「それも絵的に大きいクレーターも、灯台もあって」と。それでここを舞台にしたいと。子どもたちが住んでいる場所として灯台を使いたいんだと仰っていました。その日の前日か前々日に見つけたと言っていましたね。私にはまだ映画の全容は見えていない状態だったので「ちょっと殺風景じゃないですか?」という話をしたのですが、安彦さん的にはその殺風景さが良かったのかもしれません。
――島も灯台も、見事に映画にとってなくてはならない要素になっていました。
金子:そうですよね。それこそ実在しなかったら冗談みたいな島ですよね。もしこの島の存在を知らない状態で美術設定を作ったら、普通にNGになっていた気がします(笑)。
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――その打ち合せ時点で、資料としての画像は揃っていたんですか?
金子:アレグランサ島は無人島になっているということで検索してもなかなか出てこなくて、設定制作のスタッフが探してくれたのですが、その時点では灯台の写真は4、5枚しか見つかりませんでした。その後、スペイン語などで細かく自力で調べて、Kindleで古い白黒写真集を見つけたり、最終的にはかなり膨大な写真を見つけることができました。築100年ほどの古い灯台で「プンタ・デルガーダ灯台(Punta Delgada)」と言う名称で、今はネットで検索するとリペイントされて改装された状態の写真が出てくると思います。それに、島が鳥類保護区に指定されているらしく、鳥を観察するツアーみたいなものがあるようです。
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――今作では、改装やリペイントされる前の状態をモデルにしていますね。
金子:海辺の建物を放置したらこうなるのか…という状態で、かなりボロボロでした。ただ、軍艦島とかもそうですが、コンクリートはかなり初期のものなのでその時期の分厚さを意識しながら描いています。また、外観は写真の通りにしているのですが、中の空間は正確には分からず「ここはこういうことにしましょう」と、物語の必要性に合わせて部屋割りしています。
――灯台の高さはオリジナルに合わせているのでしょうか?
金子:灯台を背にして立つ男性の写真が見つかったので、そこから男性を170〜180cmと推測して算出しています。
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――作品に登場させるからこのくらいの高さに調整する…という形ではなかったのですね。
金子:どうしても図面が見つからないという相談をしたのが絵コンテを描かれている途中だったのですが、直接モビルスーツと並ぶことはないということなので「それなら、人間の目で見た高さの印象で良いでしょうか」と。
――灯台のレンズと光源についても伺えますか。
金子:検索しましたが、プンタ・デルガーダ灯台の照明については分かりませんでした。そこで、築年数がたぶん同じくらいの…100年ほど前の日本の灯台を調べて使っています。たしか千葉県の灯台だったかと思います。ガンダムが灯台の灯りに照らされるシーンがあるので「LEDの方が(光が)強いんじゃないか?」「多少時代により(灯台も)リファインがされているでしょう」ということで、劇中のような灯し方になっています。
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――灯台の灯りに照らされるガンダムは、まさに主役登場!というシーンでした。
金子:あの角度で照らすことができるかどうかの問題はありますが(笑)、ただ、あそこは「待ってました!」という歌舞伎的なものを安彦さんは欲しがったのかなと。漫画映画的な装置としていいもの=灯台があるので、ぜひ使っていくという感じなんでしょうね。
――今作では、青空だけでなく、夜、夕景、不穏な黒雲など、色々な状況での灯台が描かれています。
金子:はっきり明言はしていませんが、作品全体としてはメタ的な構造としてドアンたちの状況を(灯台が)現しているものだと思うんです。ドアンと子どもたちは一見すると平和に暮らしているように見えますが、灯台が半壊しているという部分を考えると彼らが必ずしも安全ではないという状況の象徴として映画の中で登場しているのかなと。そんなことを思いながら描いていました。
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――作品のラスト、青空の中ホワイトベースが灯台の上空を飛ぶシーンがありました。
金子:特に説明も受けなかったのですが、僕はあのシーンを見て、制空権を獲得した地球連邦が安全確認している動きだと感じたんです。子供たちを守るためドアンは武装放棄して連邦の制空権内で暮らしていくことを選択する…みたいなことなのかなと。その辺りをツッコんだら野暮なんですけど、ただ自分としてどういう状態なんだろう、どうして背中だけ見せているんだろうと思った時に、そういうことなのかなと。ドアンの象徴でもある灯台の上をホワイトベースが飛ぶのが判りやすいですよね。それが良きこととして見えたらいいのかなと思っていました。
――これまでのお仕事で、今作のように灯台を描かれたことはありますか?
金子:はるか彼方に灯台があるという程度ならありましたが、ここまで灯台がメインのロケーションは初めてですね。
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――金子さんご自身は、これまで「灯台」を訪れたことはありますか?
金子:観光で立ち寄ったこともありますが、父親が佐渡島の出身で小さい頃にちょいちょい訪れていたのでよく目にしていました。灯台って不思議な魅力があるものだと思うんです。子どもの頃に見ていれば、一度は灯台に住んでみたいなと想像したりすると思います。でも、船に乗る人間ではない多くの人にとっては、ものすごく目立つものの、その重要性が伝わりきらない建物の代表格なのかなと思うんです。その生涯において関わり合う機会がなかなか見出しにくい建造物でしょうし、なにか独特の魅力というか、モチーフとしては不思議なものだなと思います。
――今作でロケハンは叶いませんでしたが、実際のプンタ・デルガーダ灯台、アレグランサ島も訪れてみたいですよね。
金子:そうですね。映画を楽しんでいただけた方や灯台ファンの方、どなたか元気のある方が「行ってみた!」、または「行ったことある!」みたいな報告をSNSで上げてもらえたら嬉しいですね(笑)。
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『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』
公開中
【スタッフ】
企画・制作:サンライズ
監督・絵コンテ・キャラクターデザイン:安彦良和
副監督・絵コンテ・演出:イム・ガヒ
脚本:根元歳三
総作画監督・キャラクターデザイン:田村篤
美術監督:金子雄司
【キャスト】
古谷徹 武内駿輔 成田剣 古川登志夫 潘めぐみ 内田雄馬 廣原ふう ほか
公式サイト:https://g-doan.net/
©創通・サンライズ
取材:小林治