「それぞれに歴史と人の営みがある」灯台の物語を作家・阿部智里が紡ぐ 【和歌山県東牟婁郡串本町 潮岬灯台・樫野埼灯台】

2023/03/28

太平洋に臨む本州最南端の町、和歌山県の串本町には2つの歴史ある灯台が存在している。その1つが潮岬灯台だ。1873(明治6)年の初点灯以来、100年以上の長きにわたり海上交通の要所として沖を航行する船を照らし続けている。

もう1つは、串本町の沖合いに浮かぶ紀伊大島にあり、1870(明治3)年に初点灯した日本最古の石造りの灯台である樫野埼灯台。1890(明治23)年に起きたオスマン帝国(現在のトルコの一部)の軍艦、エルトゥールル号の遭難事故で当時の串本の人たちが懸命に救助に当たった場所としても知られている。

2022(令和4)年10月に、小説家の阿部智里さんがこの2つの灯台を訪れた。これは4人の小説家が灯台を訪ね歩き、灯台の文化的・歴史的価値や魅力を紀行エッセイにまとめて文藝春秋社の雑誌『オール讀物』に連載するという、「海と灯台プロジェクト」関連企画として行われたものだ。

灯台を管理する田辺海上保安部の職員に樫野埼灯台を案内された阿部さんは、普段は入ることのできない灯台の内部を見学したほか、エルトゥールル号遭難事故の当時の話を語り部の人から聞くなど、取材を重ねた。

「意外だったのは、灯台それぞれでロケーションが違うので、それに合わせた作り方やレンズの装着の仕方などがされていたこと。ひとつひとつがオーダーメイドなんだな、ということがわかりました」と阿部さんは語る。また、「灯台にはそれぞれに関連した歴史があって、それが灯台から見えてくるというのは非常に面白いなと思いました。紀行文を書くにあたっては、そういった歴史の裏には必ず人がいるので、ただ灯台が面白いというだけにとどまらずに、そこから人の営みが感じられるようなものができたらいいなと思っています」と執筆への意欲を高めていた。

 南紀串本観光協会の事務局長を務める宇井晋介さんは「我々も灯台を観光に利用したいですし、こうした企画を通じてもっと全国的に知ってほしいなという思いがあります」と、灯台をテーマにした取り組みへ期待を寄せていた。