船が針路を変える目印でもある海の要所 技術の継承にも一役買う 【福岡県宗像市 筑前大島灯台】

2023/03/31

玄界灘に浮かぶ世界遺産の島、宗像市大島のシンボルが筑前大島灯台だ。1926(大正15)年の初点灯以来、近海を通航する船舶を見守り続けている。島の西北端に位置する灯台の周辺の傾斜地のほとんどは、ハマヒサカキ(イソシバ)と呼ばれる岩生植物の一大群生地になっていて、美しい景観を形作っている。

灯台の本来の役割は港の位置を示すことだが、筑前大島灯台にはもう1つ大切な役目がある。福岡海上保安部次長の浦川和久さんは「関門海峡を出たところにある蓋井島(ふたおいじま)と大島との間を通るのは、壱岐水道に入って東シナ海のほうへ行く船で、結構大型船が通ります。この灯台は変針点、船が針路を変える目標になっていて、そうした船は沖合いで針路を変えて壱岐水道に入って行くんです」と筑前大島灯台の重要性を強調する。

97年前に初めてその灯りを点して以来、ほぼ姿を変えることなく技術を継承してきた筑前大島灯台。「今はLEDが多いですが、メタルハライド電球を使った珍しい灯台となっています」と浦川さん。「玄界灘は時化だすと波が高くなりますし、関門海峡を出て朝方は霧が出ることもあり、19.5海里(約36km)の距離まで届く灯台の灯りを目印に自分の船の位置を確認することができます。GPSが普及してずいぶん便利になりましたが、航海をしている人はGPSだけに頼らず、灯台の位置を確認しながら安全な航海しています」時代が変わっても変わることなく海を船で行き交う人々に安心感を与える、それが灯台の存在感の大きさとなっている。

大島の周辺には豊かな漁場が広がり、古くから漁業で栄えてきた。地元の漁業者にとっても、筑前大島灯台は心のよりどころだ。大島生まれの漁師、佐藤守さんも「約48km離れた沖ノ島からも灯台の光は確認できますし、そのさらに沖に行っても灯台の光が見えるので安心できます」と信頼を寄せる。

そうした灯台を守るのは、海上保安部の務めだ。年間数回にわたる点検を実施している。浦川さんは「灯台というのは、点いていて当たり前です。その光が消えてしまっては航海士が不安になってしまいますし、海難事故につながることもあります。そのため、仮に電源が落ちたとしても必ず予備バッテリーで点灯するように、あるいは予備球に切り替わるように、力を入れて点検しています」と不測の事態に対する備えも怠らない。

「この灯台は現在となっては珍しい灯器なので、若い職員に対して点検技術の伝承も行っています」という浦川さんの言葉通り、配属1年目の長明芹夏さんは「灯台があることによって事故を防ぐことができますし、ひとつひとつの灯台を大切にして、技術をつないで次の後輩に教えていけるようになりたい」と先輩からの指導を通じて、その重みを実感していた。

 

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