調査研究によって導かれた灯台のストーリー
連綿と夜々、室戸の海に灯火を投げ続ける光の芸術作品
室戸岬灯台は明治32年築。
日清戦争直後の海運助成策で建設された灯台のひとつです。
現存する鉄造の灯台として日本で2番目に古く、海の難所・室戸岬を約120年間照らし続けています。昼は白亜の灯台として可憐なたたずまいを見せ、夜は日本最長光達距離を誇る力強い光線を放つ姿は、まるで芸術作品。
弘法大師ゆかりの地で、世界ジオパーク認定の景勝地でもある室戸岬ですが、灯台および敷地の活用によってさらに多くの可能性が開けると、地元での期待が高まっています。
事業概要
- 事業名
- 室戸岬灯台・旧官舎利活用推進事業
- 実施団体名
- 室戸岬灯台・旧官舎及び周辺敷地利活検討共同体
- 対象灯台
- 室戸岬灯台(高知県室戸市)
- 事業の背景と課題
- 室戸岬灯台は太平洋側に突出した室戸岬の上に建つ灯台です。日本で数少ない第1等レンズを有し、歴史・文化的に価値のある灯台ですが、その魅力や価値に関する情報発信は不足しており十分に認知されていない状況です。
- 連携した団体等
- 室戸市、室戸市観光協会、高知海上保安部(交通課)、星野宏和氏(海上保安庁_海上保安試験研究センター勤務)、山北幸三氏(元室戸岬灯台勤務)、旅する料理人 三上奈緒氏、藁屋waraya 笹隼也氏、Traveling kitchen YUM 川西史宏氏、室戸市民 有志
調査・研究概要
1.室戸岬灯台の歴史・文化的価値に関する調査研究
- ①現地調査(灯台及び周辺敷地に関する情報収集)
- ②文献調査(書籍・新聞・高知海上保安部保管資料等)
- ③ヒアリング調査(有識者、海上保安部職員、元灯台守、地域住民等6名)
- ④室戸岬灯台に関する基本情報アンケート調査(市民・観光客100人)
2.室戸岬灯台・旧官舎及び周辺敷地利活用事業の実証実験
- ①室戸岬灯台有識者のレクチャーと灯台ガイドツアー(のべ1回、35名参加)
- ②旧官舎敷地を活用したアウトドアダイニング(のべ1回、35名参加)
- ③灯が点る灯台を楽しむ夜間鑑賞会(のべ1回、35名参加)
- ④室戸岬灯台まつりでの物販店舗出店(市民・観光客150人)
3.室戸岬灯台の情報共有ツール制作物
- ①室戸岬灯台に関してのインタビュー動画(ヒアリング対象者6名)
- ②灯台利活用事業の実証実験レポート動画
調査研究・実証実験による成果
室戸岬灯台アウトドアダイニング実施
新たな灯台利活用として、旧官舎敷地でアウトドアダイニングを企画、試験的に実施。地域のキーマンが集い、太平洋を見渡せる絶景のロケーションで乾杯。
夜間利用を見据えた灯台鑑賞会実施
新たな灯台利活用の一環として、夜間に美しく点灯する室戸岬灯台を生演奏を聴きながらの鑑賞会を試験実施。新しい観光コンテンツとして収益化を目指す。
実証実験レポート動画制作
室戸岬灯台の利活用事業の様子がわかるレポート動画を作成。灯台を利活用することで得られる価値や魅力をわかりやすくアピール。
室戸岬灯台インタビュー動画制作
調査研究の中で、ヒアリングを行なった6名によるインタビュー動画を制作。後世に語り継いでいきたい室戸岬灯台の歴史や魅力など貴重な情報を記録。
室戸岬灯台基本情報アンケート収集
灯台に来訪した地域住民・観光客100人に灯台に関する基本情報についてアンケート実施。灯台及び旧官舎をカフェ等、休憩のできる場所への活用希望が約50%。
室戸岬灯台まつり出店支援
毎年開催している室戸岬灯台まつりの出店を支援。地元の食材を使用したコッペパンサンドの販売やアンケート回答に対して記念品を贈呈。
課題と今後の対策(案)
物品の搬出搬入
駐車場から灯台へ向かう途中には急な階段がある。そのため大型車両が使えず、階段分は人力での搬入搬出に苦労した。
実証実験実施にかかる物品の最小化や合理化、階段部分の搬入方法の代替案について検討したい。(電動階段台車など)
旧官舎のインフラ整備と、それにかかる費用
灯台そのものには通電されているものの、旧官舎には電気が通っておらず、水道、ガスもない(事務所跡地まで)。今回は発電機、水を持ち込み、調理には火を使用して対応した(火をおこすため薪などを用意した)。
旧官舎に設備を整備して灯台と旧官舎の一体利用による事業展開を検討したい。(費用…最低限のインフラ整備は概算600万円。建物改修…旧官舎が1,260万円、倉庫が140万円)かかる費用の工面に対して、自治体や海上保安庁への相談が必要である。仮設での対応や、再生可能エネルギー(太陽光・風力など)の活用についても検討したい。
実証実験の企画・準備・運営の時間と費用
灯台まつり以外に灯台と旧官舎及び周辺敷地を活用した取り組みは初めてで、企画・準備には約2ヶ月半を要した。特に苦労したのは、「企画」と「敷地への運搬を伴う準備」であった。「企画」については今後利活用事業を共にする関係者や地域事業者・地域住民に対して利活用事業を推進する機運を高める必要があった。また、なにもない状態から実証実験の会場準備を行う必要があり、使用する備品などの運搬や会場設営などに時間を要した。また、費用は総額で400万円かかった。
今後、同様の取り組みを実施するために、まず企画準備については今回担当した室戸市観光ジオパーク課が主導になり、連携可能な地域事業者・団体と共に行う。費用については参加費を収集し、運営資金とする。また、実施にあたっては一部公的資金の獲得を検討する。