調査研究によって導かれた灯台のストーリー
時代を超えて灯台が伝える設計者の創意工夫
明治3年、本州最南端の地として最初期に灯台建設が決定した潮岬。
「日本の灯台の父」R.ブラントンが当時最大級の木造灯台として潮岬灯台を建設し、8年後、後継者J.マクリッチによって現在の石造灯台が建設されました。アメリカなど4か国と結んだ江戸条約により建設した8箇所の条約灯台の1つです。
2022年度に実施した調査により、螺旋階段の回転方向や、窓の方角、周到な湿度対策など、潮岬灯台独自の設計の特徴が判明しました。先人の創意工夫に心打たれる、近代産業建築物です。
事業概要
- 事業名
- 「灯台守になれる!体験型コテージ」 実現のための調査・研究プロジェクト
- 実施団体名
- 紀の国灯台利活用推進委員会
- 対象灯台
- 潮岬灯台(和歌山県串本町)
- 事業の背景と課題
- 和歌山県串本町は、明治期に建てられた潮岬灯台と樫野埼灯台という歴史的灯台が2基もあり、コンパクトな移動で灯台めぐりを楽しむことができる希少な場所である。さらに『本州最南端の地』として多くの人が訪れるのだが、そのほとんどが観光タワーの見学のみで帰ってしまい、歴史灯台の文化的価値を十分に周知できていない。
- 連携した団体等
- 田辺海上保安部、第五管区海上保安本部、海上保安庁試験研究センター ※資料提供、JF和歌山東漁業協同組合、南紀串本観光協会
調査・研究概要
1.旧官舎に関する調査
- ①耐震性能調査
- ②耐震補強工事の工法と見積もり調査
- ③国有財産の使用許可申請
2.観光・教育活用の可能性をさぐる調査
- ①実証実験イベント開催(特別一般公開、歴史調査講演会、灯台クルーズ)
- ②宿泊事業計画書作成
- ③潮岬灯台オリジナルグッズ作成(アクリルキーホルダー)
3.潮岬灯台の歴史調査
- ①設計者 J.マクリッチに関する調査(各地の明治期灯台と比較し、設計者の特徴を分析)
- ②光源機器の変遷に関する調査
- ③灯台建設時の串本町に関する歴史調査
調査研究・実証実験による成果
耐震性能診断は要補強という結果に
耐震性能診断では宇津木石の強度は問題がないが、石積目地の劣化により大規模地震では倒壊の恐れあり、石積壁及び木造屋根の補強が必要とわかった。
設計者マクリッチの功績を解明
灯台の建設技術を導入したお雇い外国人たち。ブラントンばかりが取り上げられがちだが、日本人術者にバトンを渡す役割を担った重要なキーマンがいた。
初代灯台跡と日本人用官舎の場所
初代木造灯台が建っていた場所は、日時計に刻印されていた(日時計がその中心地)。また日本人灯台守の官舎の場所についても古写真や資料からわかった。
海から灯台を眺める特別時間の創出
漁協の協力により最大18名が乗船できる船でクルーズを敢行した。海から灯台を眺める体験は、特別な時間の創出と学びに活かせることがわかった。
国産最後の第二等不動レンズ?!
展示されていた旧レンズの製造メーカーが長らく不明とされてきたが、今回の調査で設計図が発見され、年代、設計者の名前まで明らかに。
老若男女に喜ばれる灯台グッズ
特別公開時に配布したアクリルキーホルダーは、灯台写真をそのまま使用したもので、灯台の美しさをそのまま身につけられるとして大好評。
課題と今後の対策(案)
旧官舎を宿泊施設とするためには約1億3千万円が必要
(補強工事7500万円、ほか)
耐震性能診断の結果、旧官舎は補強工事が必要で、その費用は7500万円と判明。内装工事や調度品購入と合わせて、合計1億3千万円が必要であることが分かりました。想定より高額であり、費用の工面が課題です。
案① コンテナ式の宿泊キャビンを設置し、灯台での宿泊事業を実現。その訴求力を証明し、自治体もからめて補強工事が実現できる体制を作る。
案② 費用を工面する方法を模索
事業展開には、国有財産法に基づく国有財産の使用許可手続きが必要
6月の財団による公募を契機に会の体制を整えるとともに事業実現に向け、管轄の海上保安部と相談し事業を進めた。
旧官舎は国有財産なので耐震調査を行う際し国有財産の使用許可が必要であり、財務省とのやりとりについては行政財産を管理している第五管区海上保安本部と調整を行った。
最終的に使用許諾が得られたが、以下の条件がついた。
①耐震性能診断を行うにあたり、旧官舎を借用することに対して、法令等の規定により年間30万円の使用料を支払う。
②海上保安思想の普及を目的として許諾するものであり、公共性・公益性がなくてはならない。
なお、国有財産使用許可申請手続きについては、12月に会が申請し速やかに許可されている。
今後宿泊事業を行うに当たっては、前述の①、②のほか国有財産法関連規則に則り作業していく必要がある。