島根県・美保関灯台が取り組む「360度活用」とは(全国灯台文化価値創造フォーラムより)

2020/01/27

2019年12月10日に行われた「全国灯台文化価値創造フォーラム」。灯台のある全国自治体が一堂に会し、灯台の利活用についてさまざまな意見交換や発表が行われました。一般社団法人松江観光協会美保関町支部の住吉裕氏による「美保関灯台」の観光活用についてのプレゼンテーションをご紹介します。

発表のタイトルは「美保関灯台の観光振興対策についてー灯台を海洋資源とする360度活用の可能性ー」。島根県東部の松江市、さらにその東端に位置する美保関灯台は、明治時代である1898年に建てられた山陰最古の石造灯台です。

美保関灯台は、日本の灯台からはわずか5基しか選ばれていない「世界の灯台100選」にも認定され、また「日本の灯台50選」にも認定されており、2007年には国内灯台で初となる有形登録文化財指定を受けるなど、歴史的な価値も高く評価されています。

市街地にある美保神社や、江戸後期の雰囲気を残す青石畳通り、五本松公園といった観光地から3キロメートルほどの場所にある美保関灯台。かつてはバスツアーなどの団体客が多く訪れてにぎわいを見せていましたが、マイカーの普及や個人観光客が増えていったことで、出雲大社の式年遷宮などで一時的な持ち直しはあったものの、少しずつ来場者数にかげりが見えていました。

このままでは美保関灯台を訪れる人がいなくなってしまう、と観光協会が改革に乗り出したのは2015年。まずは多くの灯台が抱える「交通アクセスの不便さ」を解消するため、米子空港や境港駅から美保神社・美保関灯台を直通バスで結ぶ「ゑびすライナー」の運行を始めました。さらに運休日には観光協会が美保神社から美保関灯台までの無料送迎を実施することで、灯台へのアクセスを改善しました。

さらに、訪れる人を増やすための誘客方法として考えたのは、かつて灯台守が使用していた宿舎跡。この宿舎跡を活かしてレストランやショップを運営し、また夏季には限定イベントの「いさり火カフェ」をオープン。近隣アーティストによるコンサートを開くなど、「特別感」のあるイベントを開催するようになりました。また2018年には「恋する灯台」認定を受け、オリジナルグッズとして絵馬型の「青の道標」を製作・販売。カップルを誘致する施策も行いました。

 

【観光誘客増への取り組み】

・日本海に広がるいさり火を眺める夜カフェを夏季限定週末オープン

・近隣アーティストによるミニコンサートなど

・島根県で最初に日の出を拝む「初日の出イベント」

・近隣高校の美術部による、美保関を描いた絵画展

・よしもとグループとタイアップした映画ロケ誘致

・ライトアップイベント

・恋する灯台オリジナルグッズ「青の道標」の製作・販売

こうした積極的な取り組みはマスコミにも取り上げられ、認知の上昇とともにツアー会社への営業ツールにもなり、プラスの相乗効果を生み出しているといいます。過去10年間に美保関灯台を訪れる人の数は、2014年の約12万人を底として改善し始め、2018年には28万8000人まで回復。さらに2019年には30万人をマークしたとのことです。

美保関のさまざまな組織や団体、学校の協力を得ながら、あらゆる角度から灯台という歴史的価値のある資源の活用に取り組んできた美保関灯台。まさに「360度活用」の事例といえるでしょう。

 

今後の課題は、海外からのインバウンド誘致だと住吉氏は語ります。灯台周辺の保全や案内板の整備、さらに海外からのツアー誘致などを行い、また情報発信の頻度をさらに上げていく必要があると考えており、観光地としてのインフラ強化に乗り出すとしています。

5年後の目標として掲げたのは「目指せ50万人」。非常に難度の高い数字だが、この目標達成に向けて今後も美保関灯台の活用や観光客誘致に取り組んでいきたいと発表を締めくくりました。