民俗学者・橋本裕之氏が考える「灯台×郷土芸能」のパッケージ化(全国灯台文化価値創造フォーラムより)

2019/12/26

2019年12月10日、灯台のある全国自治体が一堂に会し「全国灯台文化価値創造フォーラム」が開催されました。「灯台の利活用」についてさまざまな発表が行われましたが、今回は民俗学者の橋本裕之氏による「灯台×郷土芸能」という視点からの提案をご紹介します。

「あれを見よ、沖には沖にとみえしもの—鵜鳥神楽と陸中黒埼灯台—」

民俗学を専門とし神主としても活動される橋下氏。プレゼンのタイトルにこちらを選んだ理由について、「恋する灯台」認定の陸中黒埼灯台と鵜鳥神社、そして神社が鎮座する霊山・卯子酉山との関係性をイメージしたと説明します。この日のプレゼンの2本の柱として、1つは灯台が日本近海の航海者や漁民にとって「山当て(ヤマアテ)」のような技術・技能的側面があること。もう1つは自然という人智を超えた存在に対する畏敬の念に端を発する「祈り願い」という側面があるとし、陸中黒埼灯台と「鵜鳥神楽」を事例に、海への祈りの空間として灯台の価値について語りました。

山当ては山掛け(ヤマカケ)ともいい、漁師が船の位置、根の位置を定めるために使ってきた昔からの手法。この手法が使えなければ漁ができないと言われるほど大事な漁業技法であったそうです。山は漁民にとって山当ての目印。同じく灯台も目印として用いられてきました。つまり卯子酉山と陸中黒埼灯台は漁民の海上安全を保障する役割を果たしてきたもの。だからこそ、鵜鳥信仰が三陸沿岸に広がったと考えられているそうです。

鵜鳥神社遥拝殿のしめ縄は漁で使用する網で作られており、その信仰具合が伺えるエピソードでもあります。通常、灯台とは技術を介して海上安全をもたらすもので、崇敬の対象ではないもの。しかし鵜鳥神社は漁民に崇敬されてきた理由のひとつとして、鵜鳥神楽の活動が少なからず影響していることを指摘します。

神楽とは宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01)でも描かれているように、共同体や個人の生命力を強化するため、「祓い」「清め」「鎮め」などを実践する芸能のこと。2015年に国重要無形民族文化財に指定された鵜鳥神楽は岩手県を代表する民俗芸能で、廻り神楽を続けてきました。橋下氏の説明によると、いわば「神様のデリバリーサービス」というイメージとのこと。鵜鳥神社が祈りの灯台なら、鵜鳥神楽は祈りの移動灯台ともいえると考え、祈りの施設としての灯台の価値を、地域の神事とともにパッケージ化して訴求すること。灯台はぽつねんと佇む魅力もあるとしながらも、灯台文化の奥行きと広がりを獲得のためのパッケージ化を提案していました。

橋本氏は全国の「灯台×伝統芸能×神社」「灯台×祭り×神社」例を挙げ、鵜鳥神楽@陸中黒埼灯台のアイデアを紹介。

橋本氏がピックアップした各地の例

【灯台×郷土芸能×神社】

日御碕灯台×出雲神楽×日御碕神社

能生港灯台×舞楽×能生白山神社

碁石崎灯台×虎舞×熊野神社

城ヶ崎灯台×面神楽×海南神社

岩崎ノ鼻灯台×にらみ獅子×気多神社

潮岬灯台×獅子舞×潮御崎神社

 

【灯台×祭り×神社】

白間津灯台×白間津大祭×日枝神社

美保関灯台×青柴垣神事・諸手船神事×美保神社

越前岬灯台×お獅子様祭り×大湊神社

大王埼灯台×わらじ祭り×波切神社

余部埼灯台×百手の儀式×平内神社

江崎灯台×だんじり祭り×八幡神社

 

陸中黒埼灯台で夕刻に権現舞を奉納した後に、隣接するくろさき荘で夜神楽を楽しみ、さらに翌朝の舞立ちの際には陸中黒埼灯台に権現舞を奉納して漁師の海上安全、そして人々の無事安全を祈るというもの。各地に伝わる郷土芸能とのパッケージが、灯台そして郷土芸能、さらにはその地域の活性化に繋がると締めくくっていました。