編集長が提案!「海外事例から日本の灯台の利活用の可能性」(全国灯台文化価値創造フォーラムより)

2020/03/08

2019年12月10日に行われた「全国灯台文化価値創造フォーラム」。灯台のある全国自治体が一堂に会し、灯台の利活用についてさまざまな意見交換や発表が行われました。

新たな視点からの灯台の利活用をテーマにした5人の有識者によるプレゼンテーション。トップバッターとして登場したのは、フリーペーパー「灯台どうだい?」、WEBメディア「灯台へ行こう」編集長・不動まゆう氏。「海外事例に見る日本の灯台の利活用の可能性と、いま直面する危機」をテーマに、灯台愛溢れる熱いプレゼンテーションを披露していました。

灯台女子を名乗り、灯台マニアとして活動する傍ら、本業である学芸員という不動氏。普段は、国立音楽大学楽器学資料館にて文化財を未来へ活用に従事しています。灯台は日本全国の宝、文化財という思いを込め、3つのポイントを軸にプレゼンテーションを展開していきました。

ポイント1:日本における灯台という存在

例に挙げられたのは、現存する最古の現役灯台、静岡県下田市の神子元島灯台です。約1年9ヶ月の月日をかけて建てられた神子元島灯台の初点灯は木戸孝允、大久保利通など当時の明治政府の要人も訪れるほどの国家事業であったそうです。なぜ、灯台が建てられたのか。それは、近代国家として名だたる国々との交流に必要だったから。このような背景もあり、明治期になると次々と西洋式灯台が建築されていきました。

立て続けに建てられた灯台の位置を地図で確認してみると、安政の五か国条約で開港された5港との関連性を読み取ることができます。灯台が建てられた理由は、横浜、神戸、長崎、新潟、函館といった諸外国の大型船を導くためだったのです。灯台にはは岬の端っこにあり、孤立しているというイメージがありますが、実は、灯台が連携していることもこの地図からわかります。ひとつの灯台の灯りが見えなくなると、次の灯台の灯りが見える。陸からではなく陸から見る灯台は、違う見え方をするのです。灯台同士が連携していることは、利活用する際のアイデアに加えることができる要素であると不動氏は強調していました。

2019年に陸中黒埼灯台(岩手県普代村)を訪れたという不動氏は、ある発見をしたそうです。灯台にはプレートがあり、灯台の誕生日となる初点灯の日付が記されています。しかし、陸中黒埼灯台の内部にはもうひとつのプレートがあり、そこには違う日付が刻まれていたそうです。2つの日付の謎について、普代村の民宿「みちあい」さんを訪れさまざまな話を伺ったそうです。時間の関係で、内容は割愛されましたが、不動氏が伝えたいのは「日本各地の灯台に歴史があり、それは地方の方だけが知っている。せっかくの物語があっても、伝わる機会がなければ消えてしまう」ということ。この10年間に150基以上の灯台がなくなったことを例に挙げ、「灯台は絶滅危惧種ともいえます。日本を近代化するために毎晩光を放って、灯台守が命がけで守っていたものが壊されていいのか、と毎日考えています」と思いを語っていました。

 

近年、登録有形文化財に登録されることが増えてきた灯台。登録されることで取り壊しの心配はなくなります。しかし、文化財として登録するには地元の方の尽力が必要であることに触れ「登録は、その灯台が地元の方たちからの愛を受けている証拠だと思っています。今後、登録がどんどん増えるといいなと思っています」と呼びかけていました。

 

ポイント2:ヨーロッパで感じた灯台のあり方

2019年のGWを挟んだ時期に「のぼれる灯台」を訪れた方へアンケートを実施。そこで不動氏は「とても満足」ではなく「満足」と答えた方が、なぜ「とても」と思わなかったのか考えたそうです。そこで、自身が2019年に訪れたアイルランドの灯台での体験エピソードを披露。不動氏が感じたのは「灯台で過ごす時間を意識してアピールすることが効果的」ということだったそうです。灯台からの眺望、立地場所からの風景など、景色を中心に楽しむ日本人と違って、欧米人は灯台でトレッキング、読書などの趣味、家族との団欒、お酒を嗜む、ボーッとするといった楽しみ方をしているのだそう。いられる場所がある、居心地がイイと感じること、何かに使える場所が強みになると考え、コテージやホテルになった灯台に滞在する、キャンピングカーで灯台の近くに滞在するなど、使い方の例を挙げていました。

ポイント3:灯台の強みを生かした活用提案

千葉県の野島崎灯台から洲崎灯台までツーリングを楽しむ自転車ツアーに参加したという不動氏。灯台から灯台という距離がちょうどイイということで、参加者と灯台とツーリングの相性の良さを語り合ったそうです。これは、ポイント1でも触れた灯台の連携とも繋がる話で、灯台の連携は楽しいというアピールにも使えると語っていました。

灯台があるだけではダメ。さらに何があると楽しいのかを考えることが大事であることはもちろん、マニア目線で伝える灯台での過ごし方をどんどん提案していきたいと語った不動氏。観光地としてだけではなく、何度も訪れたいと思える場所、また行きたいと思える時間が過ごせるような場所の創出が求められていると強調し、プレゼンテーションを締めくくっていました。