博士(理学)・石川智氏に聞く、下北半島における【灯台×ジオパーク】の可能性

2020/12/09

「海と灯台プロジェクト」では、地域と地域、日本と世界をつないで新しい海洋体験を創造していくことで、“灯台”の新たな価値を見出す施策を推進しています。今回は灯台とジオパークの親和性に着目し、東北最初の洋式灯台・尻屋埼灯台を例に、下北ジオパークの推進員をしている石川智氏にお話しをお伺いしました。

(石川智氏/2019年・全国灯台文化価値創造フォーラムより)

太平洋、津軽海峡、陸奥湾と3つの海に囲まれ、“まさかり”のような形をした下北半島。まさかりの柄の突端部分に位置し海に突き出る尻屋崎は、下北ジオパークのジオサイトの1つです。石川さんによると「海の浸食にさらされながらもそのように形が残っているのは、尻屋崎の大地が固い地盤であるためです。その地盤は約2億4000万年前に海底の泥やプレートの動きによって押し固められてできた岩と、さらに1億2000万年前にそこに割り入って冷えて固まった溶岩で、その大地の上に立つのが尻屋埼灯台」なのだとか。

(下北半島を囲む灯台の位置/資料提供:石川氏

 

そして、尻屋崎沖も同じく固い地盤による遠浅の岩礁が続き、加えて日本海から流れ込んでくる津軽暖流と北海道からの親潮がぶつかる潮目という“海の難所”。また、付近の海域は諸外国の船が往来する国際海峡でもあり、そこを航行する船が道しるべにできる様に光が届く高さに設計されている尻屋埼灯台は、国内最大級である第二等フレネルレンズを有し、レンガ造り灯台としては高さ日本一を誇ります。

 

一方、この地域の気候も特徴的で、夏場は季節風「やませ」が冷害をもたらし、冬場は北西風となって大地を削り、その土砂が尻屋崎に砂丘を形成します。

「尻屋崎の太平洋側では浅い海底となっている海成段丘面でコンブが生育しており、荒波で剥がれ海岸に流れ着いた質の良いコンブを収穫する『拾いコンブ漁』が盛んです。しかし、砂丘の砂を放置すると太平洋に流れ込み、コンブが枯れてしまいます。そこで付近の集落では松を植えるという事業が100年ほど前から行われています」(石川氏)

(尻屋埼灯台から陸地側を望む/写真提供:石川氏)

そして、植林されたクロマツは尻屋崎で放牧されている寒立馬の休み場となり~といったように、尻屋崎では大地・生態系・人の営みの良好な循環が行われているのですが、このような繋がりを知り、学びながら楽しむのが“ジオツーリズム”の醍醐味であると石川さんは言います。

「下北には自然環境以外にも海上自衛隊(旧日本海軍)や開拓団、古くは北前船などで外部から入ってくるいろいろな人や文化、建造物が混ざりあい、時間をかけて調和してきた歴史があります。そんな面白い景観を見ながら、各地の美味しい物を食べ、その土地や食材の成り立ちを見て学び、楽しんでもらいたいですね」

 

そして、灯台×ジオパークの可能性についても、こんな興味深い意見が。

(大間埼灯台/写真提供:石川氏)

「下北ジオパークでは、大間埼灯台、尻屋埼灯台、白糠(物見埼)灯台、陸奥弁天島灯台と、ちょうど四隅に灯台が立っています。大間埼灯台や陸奥弁天島灯台は無人島に建つ灯台なのですが、 “最涯ての地=尻屋崎”をスタート地点に、灯台4基をぐるっと見て回ったりするツアーが実施できれば、離島ファンや灯台ファンにも魅力を感じていただけるのではないかと思いますね」(石川氏)

 

またこのほかにも、上記4基に陸奥黒崎灯台と大魚島灯台を加えた下北半島全6基の灯台めぐりなど、下北の魅力を伝える様々なアイデアについてもお話をいただきました。

(陸奥弁天島灯台/写真提供:石川氏)

2020年4月現在で日本ジオパークは全43地域。地域に根差し、地域の歴史を伝える「灯台×ジオパーク」の可能性はまだまだ広がっていきそうですね。

取材:足立美由紀

 

関連リンク:下北ジオパーク

http://shimokita-geopark.com/