2023年「海と灯台のまち会議」灯台の利活用に関する事例発表~北海道鴎島灯台

2023/06/29

一般社団法人 海洋文化創造フォーラムは2023年6月7日(水)、時事通信ホール(東京都)にて、灯台を観光振興や教育、地域活性化に利活用したい自治体・企業・団体とともに「海と灯台のまち会議」を開催いたしました。

この会議では、「海と灯台プロジェクト」の一環として灯台の利活用を推進する全国5地域の関係者が登壇し、それぞれの地域での取り組みや成果などを発表しました。この記事では、一般社団法人北海道江差観光みらい機構の宮崎拓馬さんによる、北海道江差町「鴎島灯台」の利活用事例発表の要旨を掲載します。

※会議全体についてのイベントレポート(抄録)は、こちらの記事をご覧ください。

 

変わりゆく観光のあり方-そこでしかできない体験を求めて

皆さん、こんにちは。北海道江差町にある北海道江差観光みらい機構の宮崎です。私は、「かもめ島マリンピング」というイベントを通じて取り組んでいる灯台利活用の実例と体験談をお話しします。

江差町は、函館から車で1時間半ほど走った先、日本海側の小さな港町です。人口は7000人を切っていますが、北海道で最初に栄えたエリアとして古い歴史を持っています。2017年には北海道で初めて日本遺産に認定されました。

歴史・文化などのコンテンツがとにかく豊富で、どんどん減っていく人口ではカバーしきれないほどの魅力がある街です。私たちが「かもめ島マリンピング」を実施しているかもめ島は、そんな江差町に浮かぶ周囲2.6kmの小さな島です。堤防で陸地とつながっているので、歩いて渡ることができます。

 

新たな観光コンテンツ「マリンピング」で灯台を利活用

かもめ島マリンピングとは、「グランピング」「キャンピング」と海洋体験を組み合わせた新しい観光コンテンツです。「日本の夕陽百選」に選ばれた絶景や歴史、文化など魅力に満ちたこの島を舞台に、宿泊と食事、海洋体験が楽しめるイベントです。

かもめ島マリンピングには、3つの柱があります。


1つ目は、アウトドア宿泊です。ドーム型のグランピングテントを鴎島灯台の横に設置し、多くのお客さまに宿泊いただいています。通常のテントやキャンプ用品を貸し出す「手ぶらキャンプ」も並行して実施しています。

2つ目は、海洋体験です。宿泊した方に、ガイド付き島巡り、海風での凧揚げ、サップなどさまざまな海洋体験を用意しており、今年は全部で12種類ほどの海洋体験を提供します。昨年から江差町民をサップのインストラクターとして育成する取り組みを進めており、今年はいよいよ地元の方がインストラクターデビューをする予定です。

3つ目は、教育との連携です。子どもたちに海の魅力を伝えていくことにより、未来に向けた広がりや波及効果が生まれてくると考え、海洋教育イベントや地域の学校との観光連携などに取り組んでいます。昨年は、地元の江差高校と一年がかりで教育旅行向けの体験プログラムを一緒に作りました。

ほかにも、灯台利活用としてさまざまな取り組みをしています。

 


例えば、希望者への灯台内部公開。私たち「みらい機構」は海上保安庁から「航路標識協力団体」に指定されているため、灯台の鍵を預かっています。かもめ島を訪れる一般のお客さまが灯台に興味を持っているようであれば、「灯台の中をのぞいてみませんか」と積極的にお声掛けして内部を公開し、ガイドしています。また昨年は、「江差かもめ島まつり」で海上保安庁と連携し、灯台の一般公開を行いました。国民的アニメ「サザエさん」と「海と日本プロジェクト」のコラボ企画の一環として、サザエさんも来場しました。さらに、海洋教育イベントの拠点としても灯台を活用しています。


かもめ島マリンピング3年目となる今年度は、原点に立ち返って「灯台に泊まろう」を実現したいと考えています。これまでは灯台周辺を中心に広い意味でかもめ島を活用する意味合いもあり、灯台から約30メートル離れた位置にグランピングテントを設置していました。今年度は灯台敷地内の国有地に仮設式のハイグレードな大型テント群を設置し、灯台を宿泊拠点化する取り組みを進めていきます。



私たちがこうして2年間取り組んできたことが日本港湾協会様の目に留まり、「かもめ島マリンピングが若年層の海洋環境への理解増進と地域の魅力発信に大きく寄与した」として、つい2週間前(5月24日)に表彰していただきました。


不便さや厳しい環境が「楽しい観光体験」になる

さて、多くの灯台は、過酷な自然環境の中に建っています。鴎島灯台もそうです。かもめ島に登って灯台を見るためには約200段の心臓破りの階段を上らなければなりません。1年目は、宿泊者に「階段登らなきゃいけないのがつらいね」「そこが課題だよね」と言われるのではないかとずっと気にしていました。でも実際に事業を進めていくと、意外なことにお客さんは階段を登ること自体を楽しんでくれることが分かってきました。


そこで私たちは気付きました。我々がデメリットだと考えていたものは、そもそも本当にデメリットなのだろうかと。それを探るため、最近の旅行者の意識や動向を調査したり、新たな観光のあり方に関するセミナーに参加したりしました。そして、はっきり見えてきたものがあります。

それは、「観光のあり方がどんどん変わってきている」ということです。昔は定番の観光地を巡り、物欲や情報欲求を満たすことが観光の主要な部分を占めていました。しかし今のお客さんは、自分でしか体験できないこと、この場所でしかできない貴重な体験を得ることが旅の主な目的になってきています。そう考えると、かもめ島マリンピングに参加するお客さんが笑顔で心臓破りの階段を登っているのにも合点がいきます。つまり、それすらも観光コンテンツになるんですね。

かもめ島は道立自然公園に指定されているため、ハード面はほとんど整備されていません。炊事場はお湯が出ませんし、トイレはありますがシャワーはありません。そんな中で宿泊サービスを提供するのだから、その分できる限りのアナログサービスとホスピタリティでお迎えしようと取り組んできました。

その結果、「かもめ島で海洋体験と灯台のそばに泊まる体験ができたこと、それだけでも十分に楽しかったが、君たちと出会えたことが一番の旅の成果になりました」。そんなことを言っていただけるようになりました。

全国には、舗装されていない道を歩き、薮をかき分けて行かなければたどり着けない灯台もあることでしょう。でも、極端に言えばそれすらもコンテンツになるかもしれません。観光のあり方は、それほどまでに変化しています。多数派に受け入れてもらおうと考えずとも、本当に自分たちが打ち出したいことがしっかり定まっていれば、お客さんは理解してくれます。「希少な体験」と「人との出会い」。この2つが今の観光客に求められています。


多くの言葉より1枚の写真

では、そんな大きな可能性を秘めている灯台の魅力を、どう発信していけば良いのでしょうか。観光業界には、「多くの言葉より1枚の写真」という格言があります。確かに、鴎島灯台について私自身が心で感じたものを100%言葉で表現することはできません。でも、その「言葉にしきれないもの」は、写真には収まります。何日も、場合によっては何年も通いつめて写真を撮らなければならないかもしれませんが、今の時代は1枚の写真をきっかけに新たな観光客が訪ねてきてくれます。観光に携わる者として、まさしく「言葉よりも写真」だと心から実感しています。

全国各地の灯台にはそれぞれ魅力があり、行くべきポイントがあると思います。もちろんそれぞれ課題もあると思いますが、デメリットをプラスに昇華できるような発想で灯台の利活用が各地域で進んでいくことを願っています。