2023年「海と灯台のまち会議」灯台の利活用に関する事例発表~和歌山県潮岬灯台

2023/06/26

一般社団法人 海洋文化創造フォーラムは2023年6月7日(水)、時事通信ホール(東京都)にて、灯台を観光振興や教育、地域活性化に利活用したい自治体・企業・団体とともに「海と灯台のまち会議」を開催いたしました。

この会議では、「海と灯台プロジェクト」の一環として灯台の利活用を推進する全国5地域の関係者が登壇し、それぞれの地域での取り組みや成果などを発表しました。この記事では、OUTDOOR TRIP株式会社代表取締役の南畑義明さんによる、和歌山県串本町「潮岬灯台」の利活用事例発表の要旨を掲載します。

※会議全体についてのイベントレポート(抄録)は、こちらの記事をご覧ください。

私たちが日本初の「灯台ホテル」実現を目指す理由

皆さん、こんにちは。和歌山県の串本町から来ました、南畑です。串本町は本州最南端の町で、潮岬灯台と樫野埼灯台、2つの灯台があります。私からはビジネス目線から見た灯台ホテルの意義についてお話しします。

私は7年前に父からキャンプ場を継ぎ、主に宿泊業で事業を拡大してきました。アウトドアの醍醐味が味わえるグランピング施設を作ったり、老朽化した温泉宿をリノベーションしたりしながら、地域振興や地域の魅力を伝えることに地道に取り組んできました。

そして昨年からは、串本町や観光協会、海上保安庁、灯台の専門家などで構成する「紀の国灯台利活用推進委員会」に当社も参画し、潮岬灯台を日本初の灯台ホテルにするための取り組みを進めています。

 

魅力的な宿は旅の目的地になる


事業を進めるにあたり、私たちは「灯台を目的地にする」ことを重要視しています。串本町の2つの灯台は、現状、「ついでに訪ねる所」という位置づけで、その価値と比較してあまり評価をされていません。

私は自社の事業として宿を拡大していく中で、魅力的な宿を作れば、その宿を目的地としてその地域に訪れる人が増えるとの確信を持つようになりました。
同様に、もし灯台が魅力的な宿になれば、灯台を訪れる人が増えるに違いありません。海外には灯台がホテルになっている場所がいくつもありますが、日本にはまだありません。
そこで昨年、紀の国灯台利活用推進委員会は、灯台を宿にするための調査として、耐震診断や歴史調査を実施しました。また、滞在中のプログラム開発として、舟に乗って海から灯台を眺めるツアーを試験実施しました。



「灯台ホテル」と聞くと、上にすらっと伸びた塔の部分に泊まることをイメージすると思いますが、現役の灯台で塔部分を宿にするのは難しいので、灯台の横にある旧官舎の部分、灯台守が住んでいた場所をホテルにするのが現実的だと考えています。


「追体験と初体験」をテーマに五感で灯台を味わう宿


こちらが潮岬灯台です。右側にある石造りの四角い建物が旧官舎です。日本の灯台の歴史が始まった時の最初の8基のうちの1つ、日本の灯台の父といわれるリチャード・ヘンリー・ブラントンが明治3年に建造した歴史的な建物です。築150年を超えているので、ホテルにするために重要な部分を昨年調査し、水道・電気・ガスは実用段階に来ています。海上保安庁とも連携し、昨年度は耐震診断と補強候補の検討を進めました。これらを踏まえ、私たちはこの潮岬灯台が日本初の灯台ホテルに一番近付いていると認識しています。

灯台ホテルが目指すテーマは、「追体験と初体験」です。灯台を建造したブラントンがイギリスから日本にやってきたことを踏まえ、19世紀後半、明治期のイギリスを意識した部屋を作ろうと考えています。灯台の役割や歴史を学べる「海と灯台ライブラリー」も設置し、歴史を学びながら灯台に触れるような宿にしたいと考えています。

灯台守を体験できるのも大事なポイントです。灯台守はどんな生活をしていたのか、イメージだけでは分からない部分を体験して楽しんでもらえたらと構想しています。船で海から灯台を眺めたり、食をからめた体験なども考えながら、宿の実現を目指しています。


実現したら一番楽しんでもらいたいのは、やはり夜の灯台です。現状、ほとんどの方は灯台を昼にしかご覧になりませんが、夜に輝きを放つ灯台と、その光が海に伸びている光景、その周りに広がる暗い海を見てもらうことで、灯台の役割を感じていただけたらと。歴史を学びながら、五感で灯台を味わってもらうことができたら、とてもいい宿になるのではと思っています。

 

未来に灯台を残すために灯台ホテルの実現を

私たちが灯台をビジネスにするのはなぜか。それは、日本の人口減少と関係があります。今は歴史的な建造物を守るために税金が使われていますが、人口減少に伴って税収がどんどん減っていくと、いずれ税金だけで保全するのが難しくなります。そこで、ビジネスにすることで一般のユーザーに利用してもらい、維持運営費を捻出することが、灯台を守ることにつながると考えています。

もうひとつ現実的な話があります。昨年耐震診断をした結果、明治期に建てられた石造りの建物なので、このまま宿泊施設にするには耐震性能が足りていないとの診断を受けました。つまり、今大きな地震が来ると、この歴史的な建造物が倒壊または消失してしまうかもしれません。宿にするのであれば、耐震の補強を必ずしなければいけない。言い換えれば、宿にすることが、未来にこの歴史的な建物を残していくことにつながると考えています。

灯台がホテルになったらいいな、地域が元気になったらいいなと考えてこのプロジェクトに関わってきましたが、私は今、これが実現すれば未来につながることを実感しています。私自身灯台が大好きで、夜に灯台に遊びに行ったりもしていましたが、今こうして残すためのプロジェクトに関われたことを、とても誇りに思っています。


灯台には、自然と歴史、そしてここにしかないものが集まっています。地域の歴史や文化、地形などです。それらを象徴する建物として、残していく意義はとても大きいと思っています。ご清聴ありがとうございました。