「遺産としての灯台のゲノムを生かす」~「海と灯台サミット2023」海と灯台学研究の体系化に関する講演

2023/11/27

「海と灯台プロジェクト」を推進する一般社団法人海洋文化創造フォーラムと日本財団は、2023年11月4日(土)、東京ポートシティ竹芝(東京都港区)にて「海と灯台サミット2023」を開催しました。

このイベントでは、北海商科大学商学部観光産業学科教授の池ノ上真一さんが「海と灯台学研究の体系化」をテーマに講演されました。その発表要旨を掲載します。

※イベント全体についてのイベントレポート(抄録)は、こちらの記事をご覧ください。

 

皆さん、こんにちは。私は今、札幌の時計台にいます。北海道の近代を象徴するシンボルから中継をさせていただきます。

海と灯台学の深層~灯台の機能

ではさっそく、私から「海と灯台学研究」についてお話します。灯台を「海と人をつなぐシンボル」と位置付け、学問としてより深めていくためにどうしたら良いかについて考えます。

まず、【灯台の機能】に視点を向けたいと思います。これは、なぜ灯台がそこにあるのか、あるいは灯台がどんな機能を果たしてきたのかを考えるという意味です。灯台がそこにある理由は、まず第一としては「航路標識」として存在するわけですが、日本では北前船の時代の常夜灯や、縄文時代にも灯されていたであろうかがり火など、近代の灯台が建てられる以前にも航路標識(光波標識)が存在しました。灯台についても、船舶の安全や効率的な航行をサポートする存在であるとの視点でとらえることができるでしょう。

 

海と灯台学の深層~灯台のある風景

2つ目の視点として、【灯台のある風景】を挙げたいと思います。灯台の建築様式や土木技術、どんな建材が使われているか、あるいは光をどのように照らし出すのかなどに着目し、建造物としての価値に目を向けるということです。

加えて、灯台には当然のことながら「人」が関わっているので、その地域の人々が風景の中で灯台をどう位置付けてきたのか、これも注目すべきポイントです。港まちを歩くと、さまざまな海岸や岬にそれぞれ地域で親しまれている名称があり、そこにある草花にも名前があります。そのような地域の人々が大切にしている景観の中に、灯台、あるいは近代以前に建てられた常夜灯が存在しています。ですから、地域の人々が灯台や常夜灯にどのような価値を感じてきたのか、感じているのかを掘り下げていくことも大切だと考えます。

 

海と灯台学の深層~人と海との関係

さらに深掘りしていくと、3つ目の視点として【人と海との関係】、つまり人が海とどのように関係を持ってきたかを考える視点にたどり着きます。少し大きな話になりますが、太古の昔、現生人類ホモ・サピエンスが、アフリカの北東部、現在のエチオピアの辺りから旅立ち、世界中の大陸や島々に移り住んでいきます。一方で、海は深くて厳しく、人類にとってなかなか近寄りがたい存在でした。

それから長い年月が経ち、ホモ・サピエンスは地球を「制覇」したかのように見えますが、地球の表面積の7割を占める海に対しては、まだまだ関係性をしっかり築いているとは言えないのが現状です。その反面、豊かな恵みや資源を人類に提供してくれているのも海です。さらに、国と国、地域と地域、あるいは人と人をつなぐ道としても海は存在してきたと言えるでしょう。

 

海と灯台学の深層~ヘリテージとしての価値

人と海との関係をしっかり考えるために、4つ目の視点として、灯台を「海と人を関係付けるヘリテージ(文化遺産)」として位置付ける、「灯台遺産」としてとらえることができます。

ヘリテージとはそもそも、人類とその地域を幸せにするためにご先祖様が残してくれたゲノム、遺伝情報であると考えます。ですから、現代の私たちはそのゲノムを解析していく必要があります。

現代、気候変動や情勢不安など、懸念すべき要素がいろいろあります。私はまちづくり都市計画などを専門にしていますが、決して人に優しいとは言えない現代の地域社会を鑑みるに、やはりもう一度、人が地域とどのように関わっていくか、さらに海とどんな関係を築いていくかを見つめ直すことが大切になってくるのではないかと考えています。

 

海と灯台学の水平~ヘリテージを生かす

それを進めていく上で、しっかりと灯台の価値を再発見=「ゲノム解析」し、そのヘリテージを受け継ぎ、生かす=「価値を創造する」ことが大切です。そこにつながるような学問を深めていきたいと考えています。

灯台ヘリテージのゲノムの生かし方としては、建造物そのものや建築技術に焦点を当てる「物質として再生させる」、眺望ポイントやロケ地などとして活用する「特別な場として再生させる」、チェアリングやキャンプなど「新たな海と人の関係のために活用する」など、さまざまな方法があります。気候変動や国際関係、海洋環境など、地球と人との関係を考える拠点として活用することもできます。

あくまでも構想ですが、「海と灯台学」がどのように展開していくのか、「機能」「風景」「人と海の関係」を横軸に並べてみました。縦軸には、灯台の価値をいかに再発見するか、そして新しい価値をいかに創造していくかを設定し、それに関わる学問領域を並べました。さまざまな学問領域を横断的に結ぶことで灯台の価値を見つけ出し、人類がこれから先、海とどのような関係を築いていくかを考えられるような学問を作りたいと考えています。

少し大きな話になりましたが、そう考えるほどまでに私は、学問的な視点から見た「灯台」に深い価値を感じています。人と海の最前線としての灯台をこれから学問としてどう扱っていくか。これを「灯台学」の大きな課題として、取り組みを展開していきたいと考えています。以上が私からの話になります。ありがとうございました。