「セットを建築して、当時の苦労を実感」『ライトハウス』脚本家マックス・エガース氏インタビュー(第2回)

2021/07/08

7月9日(金)公開の映画『ライトハウス』(ロバート・エガース監督作)の脚本を手掛け、監督の弟でもあるマックス・エガース氏へのインタビュー第2回をお届けします。第1回は下記を参照ください。

「灯台は、神話の巨人のような存在」『ライトハウス』脚本家マックス・エガース氏インタビュー(第1回)

映画『ライトハウス』に登場する灯台と周辺の建物は、カナダのノバスコシア州に建てられた実物大のセット。19~20世紀頃のメイン州の灯台の様式が緻密に再現されていますが、外観は同州のケープ・フォーチューの漁業コミュニティに建てられ、一部の室内シーンの撮影も行われました(そのほかは同州ハリファックスの外れのスタジオと倉庫で撮影。今回はそのセットについての話です。

—撮影用の灯台ステーションのセットはどのくらい緻密に再現されたのでしょう?

マックス・エガーズ:灯台と隣接する建物のセットを最初に撮影したときから、周囲の人にそれが実際にある灯台だと思わせることがとても楽しかったです。私の記憶が間違っていなければ、灯台が本物ではなくすべてセットであったことを観客に明らかにしたとき、彼らは信じていませんでした。これは、プロダクションデザイナーのクレイグ・ラスロップと彼のチームのおかげです。美術チームはもちろんのこと、すべての部門とスタッフが、この映画を可能な限りリアルで本物に近づけるために労を惜しまず働いてくれました。

衣装担当のリンダ・ミューアによる素晴らしい灯台守の制服をはじめ、プレート、チョークバッグ、「USLHE(United States Lighthouse Establishment)」と書かれたチリトリに至るまで、灯台守の生活を緻密に再現することを目指しました。これは、彼らの几帳面な生活を反映しているということもありますが、観客を彼らの世界に引き込むためでもありました。

この作品の、そして他の灯台でもそうですが、“宝石”とも言えるのが、塔の上に設置されたフレネルレンズです。このセットは確かに見ごたえがありましたが、ケープ・フォーチューでの悪天候には耐えられないのでは?という疑問を同時に抱きました。ですが、セットで灯りをつけた最初の夜、フレネルレンズの光が対岸の家々まで照らしている光景を見たとき、このセットのクオリティをあらためて実感し、疑問も吹き飛び、この建物の力とその技術的な驚異を信じることができました。

(c) 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

--「灯台」のセットの出来、セットを訪れた際の感想を教えてください。

マックス:初めてセットを訪れた時は、まるで家に帰ってきたような感覚でした。ロバートと私は、頭の中でこの世界を作り上げるためにたくさんの時間をかけてリサーチしていたので、素晴らしいスタッフが作ったセットが、強風にもかかわらず70フィートの高さで立っているのを見るのは言葉では言い表せないほど素晴らしいことでした。

そのために、セット建設は当時の灯台建設と同様の苦労にさらされました。建築中にも嵐が襲来しセットが氷に覆われ、工事中断を余儀なくされたこともありましたが、かつて灯台を建てた人々が直面していた死と隣り合わせの状況を実感させられもしました。撮影初日、夜が明けてフレネルレンズが太陽に照らされたとき、ロバート・ルイス・スティーブンソンの家族(※)がスコットランドにたくさんの灯台を建てたときのような気持ちになりました。涙が出そうになり、実際泣きました。

 

※ロバート・ルイス・スティーブンソン…19世紀イギリスの小説家・詩人。祖父と父が灯台建築の土木技術者で、彼らを題材にしたしたベラ・バサースト著のノンフィクション「The Lighthouse Stevensons」が発行されています。

マックス氏はさらに「灯台」への想いなども語ってくださっています。この続きは「第3回」(7月10日更新予定)をお楽しみください。

映画『ライトハウス』

7月9日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

STORY:1890年代、ニューイングランドの孤島に二人の灯台守がやって来る。彼らにはこれから四週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。だが、年かさのベテラン、トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と未経験の若者イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)は、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。険悪な雰囲気の中、やってきた嵐のせいで二人は島に閉じ込められてしまう……。

監督・脚本:ロバート・エガース/脚本:マックス・エガース/撮影:ジェアリン・ブラシュケ/製作:A24 

出演:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン

2019年/アメリカ/英語/1:1.19/モノクロ/109分/5.1ch/日本語字幕:松浦美奈

原題:The Lighthouse/提供:トランスフォーマー、Filmarks/配給:トランスフォーマー 

公式HP:transformer.co.jp/m/thelighthouse/

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『ムーンライト』(16)、『ミッドサマー』(19)などの良質な作品を生み出している配給会社A24製作のの日本公開が7月に決定。あわせて、ポスタービジュアルと特報映像も到着した。


長編デビュー作『ウィッチ』(15)が高く評価されたロバート・エガース監督の新作ということもあり、長らく日本公開が待たれていた本作は、

ポスタービジュアルは舞台となる孤島を背景にパティンソンとデフォーの顔が奇妙な構図で切り取られたもので、中心には本作の重要なキーワードの“灯台”が配置され、モノクロームの色調が不穏な空気を醸し出している。同時に解禁された特報映像は、暗闇に灯る灯台と耳障りなサイレンの音、孤島にやってきた2人の男が順々に映し出され、これから彼らに待ち受けるミステリアスな運命を予感させる内容となっている。


さらに、第92回アカデミー賞撮影賞にもノミネートされた、モノクロームの映像の美しさも見逃せない。実力派スターの競演とこだわりの映像から生み出される狂気の世界をのぞいてみてはいかがだろうか。

文/サンクレイオ翼