「灯台に行きたいと思ってもらえたら成功」灯台の魅力と可能性を掘り下げる「海と灯台サミット2022」実施レポート
2022/11/2811月1日(火)の「灯台記念日」から始まる「海と灯台ウィーク」期間の2022年11月5日(土)、灯台の未来を考える「海と灯台サミット2022」(主催:全国灯台文化価値創造フォーラム)が、東京・原宿駅前「WITH HARAJUKU HALL」にて開催されました。同イベントでは、国内外の専門家や有識者、子ども博士、文化人らが一堂に会し、異業種・異分野からの視点を交え、灯台の魅力を深く語り合い、灯台の利活用の可能性を探りました。
今回、パネリストとして参加したのは、時事Youtuber・お笑いジャーナリストのたかまつなな氏と、フリーペーパー『灯台どうだい?』編集長の不動まゆう氏。会の冒頭では、主催者の日本財団・笹川陽平会長より、日本最初の洋式灯台としてフランス人技師・F.L.ヴェルニーにより建設された神奈川県横須賀市の観音埼灯台の上から中継であいさつがありました。
「江戸時代の終盤まで、日本の海は“漆黒の海”と呼ばれるほど真っ暗で、多くの船が難破し、人が亡くなることもたくさんあったのですが、そういう中で明治初期、近代的な灯台が初めて作られ、海の状況が一変しました。日本の近代化はペリー来航を機にはじまりますが、その際に結ばれた開国・通商条約の中に、灯台の建築が求められ、その第一号が観音埼灯台となります。それによって外国からの船もたくさん来るようになりましたし、日本の船の命のともしびとして活用されるようになりましたから、地域の海の歴史、文化、そして誇りを担って、さらにこの景観美を形づくるなど、さまざまな文化的な役割を果たしてきたんですね」と、灯台が担う役割について述べました。
そして、会場に集まった有識者に期待することとして「灯台を中心として、さまざまな社会的・文化的な遺産というものがたくさんありますので、そういうことについても皆さん方に話し合っていただけると嬉しいですね。思いのほか、灯台というものは歴史、文化、そして私たち日本人にとってかけがえのない海洋文化資産なのなですが、あまり知られなくなってきているので、もう一度、皆様方と共に話し合って、理解を深めて行きましょう、というのが日本財団の『海と日本プロジェクト』の思いでございますので、どうぞ有意義な時間を過ごしていただければ幸いです。今日は、灯台の過去から現在、そして未来に向けて、灯台を中心に、皆様方のお話が活発に進むことを期待しております」というメッセージが贈られました。
海上保安庁の石井昌平長官からはビデオメッセージが届きました。
石井長官は「海上保安庁では、船の交通の安全のための『道しるべ』となる灯台を全国で約3000ヶ所に設置し、管理しております。最近では灯台の歴史的・文化的な価値も認められ、令和2(2020)年に灯台が初めて国の重要文化財として指定され、今年度末には全部で13灯台が重要文化財となります。本日のサミットは『灯台の未来』がテーマとお聞きしました。灯台の保守や管理は、以前は灯台守と呼ばれた私どもの職員が灯台の敷地に住んで行っていました。その後、遠隔監視の技術を導入するなどして合理化を進め、全国のすべての灯台の無人化が16年前に完了しました。それ以降は地域の皆様のお力もますますお借りして、灯台は守り育てられています。
昨年には法律改正もしまして、灯台のペンキ塗りや錆落としなどの簡単な修繕であれば地域の皆様にも行っていただける制度を新しく作りました。その制度に基づき、すでに20を超える団体を指定し、それらの団体には灯台についての構造や設計の図面などの情報も提供するなどして、活動を支援しています」と、灯台の現状も紹介。そして、「本日のトークセッションでは、さまざまな分野・年代の方々に灯台の未来について話し合っていただくとお聞きしています。灯台について、本来の役割に加えて新しい価値が見いだされ、地域の皆様、地域を越えた皆様にさらに注目していただけるきっかけのひとつとなれば大変有り難く思います」と結びました。
続いて、石川県珠洲市の禄剛埼灯台、北海道檜山郡江差町の鴎島灯台、静岡県御前崎市の御前崎灯台を生中継で結び、それぞれの灯台が地元の皆さんと共に歩んでいるかを紹介。禄剛埼灯台に程近い「能登さいはて資料館」からは、禄剛埼灯台の灯台守を務めた方のひ孫さんが、遺された貴重な写真や制帽などを通し、灯台への思いを語りました。鴎島灯台からは、灯台のふもとでグランピングが楽しめる、新たなレジャースタイル「マリンピング」を、江差町の照井誉之介町長も参加してアピール。御前崎灯台では「海と灯台ウィーク」に合わせて開催された「灯台ワールドサミット in 御前崎」にて行われた学習イベントに参加した地元の小学5・6年生の様子も映し出されました。
また、不動氏とたかまつ氏による、「海と灯台サミット2022」会場横の特設ギャラリーのレポートもありました。灯台のオブジェや、日本各地の灯台の写真にはじまり、灯台にまつわるクイズ、出版されたばかりの「海と灯台学」の書籍などに加え、来場者による「あなたの思う“灯台のミライ”」というテーマへのアイディアも掲示されていました。
そして、2021年に続き、今年も放送された紀行番組「中村獅童の灯台見聞録」に出演しているフリーアナウンサー・笠井信輔氏を迎え、「灯台に与える映像・メディアの力」と題したトークセッションがスタート。文化人が、海と人との関わりの中で灯台が果たしてきた価値について、それぞれの視点で向き合っていただきました。
笠井氏は、ゲームやアニメにも登場する灯台に言及し、「我々のような既存のメディアでお伝えするのと同時に、ゲームやアニメといった新しいメディアとのコラボレーションで、新たに灯台を訪れるきっかけが生まれる」と、新たな可能性を見いだしていました。また、中村獅童氏のビデオメッセージや、現代アーティスト・小松美羽氏が島根県の鷺浦灯台、出雲日御碕灯台、美保関灯台をめぐったショートームービーのダイジェスト映像も上映されました。
続いては「世界の灯台はどこへ向かうのか?」をテーマに、フランスから来日した、フランス海洋博物館 灯台専門キュレーターのヴァンサン・ギグノー氏を迎え、海外では人々が灯台をどのような存在と捉え、どのような価値を見出し、取り組んでいるかを紹介。その上で、暮らし研究家のYADOKARI㈱ 代表取締役COOのウエスギセイタ氏、キャンプインフルエンサーのムー氏の視点から、灯台という「空間」を今後、どのように利活用していくべきかを語り合いました。
「灯台という物語を未来に届ける」というテーマでは、安部龍太郎氏、阿部智里氏、門井慶喜氏の小説家三名と日本財団 常務理事の海野光行氏が登壇。小説誌「オール讀物」2022年11月号よりスタートする灯台紀行エッセイの連載を執筆する小説家たちが、名もなき地域の物語でも、作家が光を当てることで注目を集め、理解と共感が広がることがあるという事例をもとに、明治建築や郷土史などに作家が関心を向けることで、灯台への認識はどう変化するか、という視点で意見が交わされました。
「子ども博士が考える灯台の未来学」では、お城、魚、航空写真というそれぞれのジャンルで圧倒的な知識を持つ中学生2人と高校生が、灯台の価値と魅力について、各々の視点から熱く語る。その斬新なアイディアと情熱的かつ理知的な語り口には、不動編集長、たかまつ氏、海野常務という登壇者はもちろん、観客も終始圧倒されていました。
そして、最後は「日本財団が考える灯台の未来デザイン」と題し、海野常務理事が、「灯台が持つストーリーの磨き上げ」「異分野 異業種との連携による新しい視点の投入」「わかりやすいインパクトと話題性」という視点のもとで、現在取り組んでいる新たなモデル事業を紹介。富山県の生地鼻灯台で進行中の、宿泊施設と漁業文化を伝える施設の展開や、北海道函館市の恵山岬での灯台サウナ建設など、各土地の灯台にまつわるエピソードを発展させた事業について触れました。また、「海と灯台のまち会議」を2023年春に実施予定であることも発表されました。
イベントの締めくくりに、不動氏は「今日はたくさんのアイディアと、プラットホーム作成の必要性など、いろんなヒントをみんなで力を合わせて具現化していくということで、あとは日本中の人が灯台を好きになるだけのことなので、ますますやる気を持ちました!」と力強くコメント。たかまつ氏は「灯台ってこんなにおもしろいんだ、と思いましたし、行ってみたい灯台もいっぱいできました」と、笑顔を浮かべていました。
そして、海野常務は「今日、イベントにお集まりいただいた皆さんが、なんとなくでもいいので『灯台に行ってみたいな』と、海や灯台に興味を持って下さったのなら、それだけでも今回のサミットが成功したな、と思います。灯台は美しい風景や、いろいろ埋もれているものがたくさんあって、それを活かしていくともっといろんな利活用ができるということを感じていただけたと思います。さまざまな価値や利活用の可能性がたくさん秘められていますので、海洋国家・日本として、これを大切に使いながら、私たちも資産として、次世代にしっかりと引き継いでいくという決意をまた新たにして、今後も一生懸命努力していきたいと思います」と結び、約4時間半にわたるサミットの幕が下ろされました。