2023年「海と灯台のまち会議」イントロダクション要旨~日本財団 海野光行常務理事

2023/06/15

一般社団法人 海洋文化創造フォーラムは2023年6月7日(水)、時事通信ホール(東京都)にて、灯台を観光振興や教育、地域活性化に利活用したい自治体・企業・団体とともに「海と灯台のまち会議」を開催いたしました。

会議の冒頭、長年にわたって灯台の利活用の推進に携わってきた日本財団の海野光行常務理事が登壇し、「海と灯台プロジェクト」発足の経緯や、同プロジェクト内での新たな取り組みについて説明しました。以下にその要旨を掲載します。

※会議全体についてのイベントレポート(抄録)は、こちらの記事をご覧ください。

 

灯台を見せたい理由がそこにある

皆さんこんにちは。日本財団の海野です。私は仕事で海外の「海のある町」を訪れる機会がよくあります。不思議なことにほぼ100%、地元の人々が私をある場所に連れて行ってくれます。空港から目的地まで案内してくれる途中で、「ちょっと見せたいものがある」と言って灯台に立ち寄り、そこでいろんな話をしてくれるのです。なぜ彼らがそんなことをするのか、聞いているうちに3つの理由が分かってきました。

まず、海外の灯台は形や色が1つずつ異なるということです。地元の灯台は唯一無二の存在であり、それを訪れた人に見せたいという思いが強いようです。次に、地元の人々は灯台を町のシンボルとして誇りに思っています。そして最後に、彼らは海との関係や人との関係を感じながら、灯台のある場所を町全体で盛り上げようと考えています。これらの思いが現地の人々の行動に反映され、異国から来た人に「ぜひこの灯台を見てほしい」という行動に現れているのだと思います。

 

200年前に建てられた灯台が絶景ホテルに

ここで、海外での灯台の活用例をいくつか紹介します。まず、アメリカのポートランドヘッド灯台です。ボストンから少し北、大西洋に面した場所にあり、周囲には博物館やギフトショップが整備されています。また、海から灯台を巡るクルーズツアーもあります。灯台の正面は海側なので、本当の灯台の姿を見るには海から見るのが最適です。さらに、夜に海上から灯台を眺めるツアーも行われています。こうした活用方法によって、灯台を取り巻く自然景観や歴史を一緒に体験できる場所として活気づけられており、地元の人々もそれを大いに誇りに感じています。

写真で見ても、この灯台が人と海をつなげる存在であることがよくわかります。年間約100万人の観光客が訪れる観光名所ですが、少し離れた場所にはベンチがあり、灯台を眺めながら哲学することもできます。

次に、イギリスのベル・タウト灯台についてご紹介します。ロンドンから車で約2時間のイギリス海峡に面した断崖絶壁の上に建てられた灯台で、約200年前に建造されました。1902年に灯台の役割を終え、現在はホテルとして利用されています。

最上階には灯台のライトがあったスペースがあり、宿泊者が自由に利用できるラウンジとなっています。また、灯台の塔と付属する建物には6つの客室があります。この貴重な場所に泊り、景色を独り占めできて、一泊の料金は一室3万円から4万円です。イギリスの伝統的な朝食も楽しめるため、非常に人気があります。

 

個性的で魅力にあふれる、奥深い存在

海外の灯台の多様性を見ると、なんとなく「日本の灯台はどれも同じ」と思ってしまいがちですが、実際にはそうではありません。形や色がそれぞれ異なり、一つずつ丁寧に見ると非常に興味深い要素があります。日本財団は、各地域の文化、歴史、自然資産としての日本の灯台の魅力と活用に可能性を見出し、これまでさまざまな支援活動を行ってきました。


灯台は建造物の多様性だけでなく、建設の経緯や地域の歴史的・地政学的な要素なども重要です。さらに、長年にわたって灯台を守り続けた人々の思いも考慮すると、その存在がさらに奥深いものに感じられます。


灯台と日本人の関わりについて体系的にまとめた資料がこれまで存在しなかったため、日本財団「海と灯台プロジェクト」は、それを一冊にまとめた本「海と灯台学」を文芸春秋社と共同で出版しました。この本は日本の灯台を日本近代化の象徴ととらえ、歴史、人物、技術、地方の4つのパートに分けてその価値を詳しく解説しています。おかげさまで好評で、各地域の図書館からも多くの引き合いがあります。まだご覧になっていない方は、ぜひご一読ください。

 

灯台の個性を生かし、地域における資産へ育てる

昨年度からは、「新たな灯台利活用モデル事業」という新プロジェクトを開始しました。各地域の灯台が持つ独自の経緯やストーリーを調査研究し、地域の資産として位置づけるための支援を行う助成事業です。昨年度は24件の応募のうち12件を採択し、支援を行いました。灯台を中心に、人、モノ、アイディアが集まるプラットフォームになることを想定し、全国各地の皆さんに利活用に取り組んでいただきたいと考えています。


私たちは、灯台の個性を生かし、灯台を地域における資産へ昇華させること、そのことに強い意欲を持つ「人」とつながることを目指しています。決して、灯台が役割を終えて廃棄されるからではありません。人と海、海と地域がつながる創造的な空間を新たに作る、前向きな取り組みです。

今ここにいる私たちは、灯台の未来に対して重い責任を負っています。日本財団も引き続き、灯台を良くするために活動する皆さんをしっかりとサポートし続けます。一緒に灯台の魅力を引き出し、人とともに海とともに、地域の未来を創造していきましょう。