2023年「海と灯台のまち会議」灯台の利活用に関する事例発表~北海道恵山岬灯台

2023/06/16

一般社団法人 海洋文化創造フォーラムは2023年6月7日(水)、時事通信ホール(東京都)にて、灯台を観光振興や教育、地域活性化に利活用したい自治体・企業・団体とともに「海と灯台のまち会議」を開催いたしました。

この会議では、「海と灯台プロジェクト」の一環として灯台の利活用を推進する全国5地域の関係者が登壇し、それぞれの地域での取り組みや成果などを発表しました。この記事では、函館市長の大泉潤さんによる、北海道函館市「恵山岬灯台」の利活用事例発表の要旨を掲載します。

※会議全体についてのイベントレポート(抄録)は、こちらの記事をご覧ください。

北海道恵山岬灯台の利活用事例発表

皆さんこんにちは。函館市長の大泉潤です。今日は「灯台を生かした観光の魅力作り」と題してお話しします。昨年、函館の企業と市で構成する協議会が恵山岬灯台について調査を行いました。その内容を皆さまにご紹介します。

函館市は北海道南部地域の半島に位置しています。東京23区より少し広い677平方キロメートルの面積があります。函館の夜景や異国情緒あふれる街並みなど、観光地として有名な場所は、函館山周辺です。恵山岬灯台は、函館山周辺から車で約1時間離れた函館東部エリアの東の端にあります。

函館東部エリアは自然豊かで、特に私のお勧めは活火山の恵山です。標高618メートルの恵山は今も噴煙が立ちのぼり、地球が生きていることを体感できます。登山道を1時間ほど登れば海の絶景が広がり、津軽海峡の向こうに青森県の下北半島が見えます。恵山の沖合は、寒流と暖流が交わる非常に良い漁場です。


このエリアはかつて縄文人が1万年以上も定住した場所として知られており、2021年には「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界遺産登録されました。この函館東部エリアにもっと多くの方に足を運んでいただきたいと私はかねてから思っていましたが、恵山岬灯台は長年「知る人ぞ知る」存在でした。

そんな中で昨年、協議会が立ち上がり、日本財団からのご支援を受け、恵山岬灯台に関する調査研究が行われました。具体的には、文献調査や灯台の設備確認、専門家による視察などを行いました。こうした調査研究の結果、恵山岬灯台を軸に函館東部エリアの自然・歴史を語る新たなストーリーを導くことができました。そのストーリーをご紹介します。


世界と日本、北海道と本州をつなぐ海の守り神


恵山岬灯台は、世界と日本、北海道と本州をつなぐ「海の守り神」です。この写真後方に見える山が恵山です。火山活動により溶岩が海に流れ落ち、海中に複雑な地形を作り出しています。さらに2つの海流がぶつかり合うため霧が発生しやすく、昔から船乗りたちに「海の難所」として恐れられてきました。

そこで明治に入り、北海道庁が建設費を投じて作った灯台のひとつが恵山岬灯台です。灯台の設置により、北海道を開発するための資材運搬や本州への農産物・水産物などの船での輸送が安全にできるようになりました。


こちらの図は、北海道の主な灯台の位置を点で示したものです。見事に北海道の形が浮かび上がります。江戸時代には灯台がなく、海岸線は真っ暗だったそうですが、灯台のおかげで安全になり、北海道の開発が進みました。恵山岬灯台も、本州や世界からの船の行き来を見守りました。明治23年の恵山岬灯台初点灯から30年後、大正9年に実施した第1回国勢調査で、函館市は人口15万人と東北以北で最大の都市となりました。函館の発展を支えたのが灯台なのです。


また、意外と知らないトリビアになりますが、実は恵山岬灯台と対岸の尻屋崎灯台とを結んだラインが、日本海と太平洋の境い目になっています。恵山岬灯台は、日本の海のゲートとして、重要な役割を果たしているのです。


海と灯台とサウナを1本の線で結ぶストーリーを発掘

昨年行った市民アンケートでは、恵山崎灯台に行ったことがない人のうち、実に82%が灯台に関する情報を読んだ後、「灯台に行ってみたい」と答えました。特に、明治から昭和にかけて灯台守と呼ばれる技術者が家族と共に灯台に住み込み、24時間体制で灯台を守ったというエピソードに、多くの市民が興味を示しました。灯台は、先人から受け継いだ地域の歴史的遺産だったのです。

恵山岬灯台活用協議会は昨年度、調査結果をもとにした灯台の利活用にもチャレンジしました。


中でも「灯台サウナ」は、テレビや報道などで報道され、大変話題になりました。当日はサウナに入るだけでなく、灯台とサウナ、そして海にまつわる話もあり、充実したイベントになりました。恵山岬灯台活用協議会の矢田さんがZoomでこの会議に参加していますので、灯台サウナについてもう少し補足していただきましょう。

こんにちは、矢田です。函館の港が一望できる公会堂という場所にいます。灯台のおかげで発展したまちです。

日本で最初にサウナが行われたのは、実はここ北海道です。江戸時代にロシアのラクスマンという人が海を渡り、北海道にやってきてサウナをもたらしました。私たちが調べたところ、ラクスマンの船はその時、恵山岬の近くの海で漂流したという事実も分かりました。当時はまだ灯台がなかったので、非常に海が危険だったわけです。これらの話を「海と人との歴史」や灯台の大切さを伝えるエピソードだと考え、灯台サウナのイベントの際に参加者にお伝えしました。

矢田さんからお話があったように、海を通じて外国から人や物、技術がもたらされたことや、海の難所で船を守る灯台の役割について語れるイベントであることが良かったと思います。また、ここでしかできない非日常的な体験であったこと。それが何と言っても売りになります。


協議会は今後、さらに灯台に関する情報発信に取り組み、隣接するホテルと連携した企画を組むなど、さまざまな展開を検討していきます。私自身も、灯台の利活用は地域の新たな観光の魅力作りにつながるものとして、しっかりサポートしていきたいと考えています。